そうそう使える代物じゃない? F1由来の技術がどのぐらい市販車に採用されているか考えてみた (2/2ページ)

一般庶民に向けた技術もF1由来だったりもする

 ハイパーカーと呼ばれるカテゴリーにおいては、F1で実績のあるデザイナー(設計者)のキャラクターを前面に押し出すことでF1由来というブランディングをしている例は多い。

 そうした手法のルーツであり、最高傑作といえるのが「マクラーレンF1」だろう。

 1988年、マクラーレン・ホンダとして16戦中15勝という金字塔を打ち立てたマクラーレンF1チームのチーフデザイナーであるゴードン・マーレー氏が設計したスポーツカーは、運転席をキャビン中央に置いたセンターシートで、助手席はその左右斜め後方に置くという1+2レイアウトが特徴的なハイパーカー。

 もともとはレーシングカーではなく、あくまでストリートモデルとして開発されたにもかかわらず、日本のスーパーGTやル・マン24時間耐久などツーリングカーをベースとしたモータースポーツにおいて大活躍をしたのは記憶に残るところだ。

 とはいえ、マクラーレンF1は名前にF1と名付けているものの、ミッドシップに積んでいるのはBMW製の6リッターV12エンジンであり、F1マシンとの関連性はそれほどなかったのも事実だ。

 最近では、レッドブルレーシングのデザイナーであるエイドリアン・ニューウェイが設計に関わった「アストンマーティン・ヴァルキリー」がF1直系のハイパーカーと呼ばれることもあるが、こちらもエンジンは6.5リッターV12であって、パワーユニットは別物となっている。

 F1由来のエンジン技術を採用しているというふれ込みなのが「マセラティMC20」のV6ツインターボエンジンだ。

 バンク角90度のV6エンジンという点ではF1直系ともいえなくはないが、MC20の排気量は3リッターであり、レギュレーションで1.6リッターとなっているF1のエンジンとは別物といえる。ただし、F1エンジンが究極の熱効率を求めて採用している副燃焼室テクノロジーを用いているという点においては、F1からのフィードバックが感じられるといえる。

 いずれにしても、ここで紹介したハイパーカーは数千万円から数億円という価格帯となり、庶民にはまったく縁のないモデルである。その意味で注目したいのは「フォーミュラ1由来」のエネルギーマネージメント技術により省燃費性能を高めたというルノーのハイブリッドシステム「E-TECH」だ。

 減速エネルギーを充電に利用する回生ブレーキの制御、シームレスなトランスミッションといったE-TECHの構成要素においてルノーF1の知見が活きているというのは、おそらく事実だろうが、エンジン横置きのハイブリッドパワーユニットをF1直系というのは少々無理があると感じる。冒頭で記したようにマーケティング的な狙いが見え隠れする。

 もちろんそれは悪いことではなく、ユーザーがF1由来のテクノロジーということで満足できるのであれば、モータースポーツ活動の正しい成果といえる。

 思えば、1980年代にホンダがF1にエンジンコンストラクターとして復帰したころ、量産車では燃料供給装置として電気信号によって制御するインジェクターが登場。ホンダは、インジェクションシステムの名前を「PGM-FI(プログラムド・フューエル・インジェクション)」と名付けた。その名前は現在でも使われている。

 そして、1980年代にはFI(エフアイ)をF1(エフワン)と空目するユーザーが多数発生した。ちょうどF1でホンダエンジンが活躍を始めたことや、久しぶりにホンダの量産DOHCエンジンが復活したこととあわせて、ホンダエンジンはF1テクノロジーのフィードバックというイメージが独り歩きしたが、それがホンダのブランディングにおいてプラスに働いたことは間違いない。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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