「急速充電は1日2回まで」はなぜ? ほかのEVとは違う「トヨタbZ4X」の独自ルールの謎 (2/2ページ)

急速充電がバッテリーの短命化につながることは間違いない

 では、グロス値71.4kWhとNET値64kWhの差し引き値7.4kWh分にはどんな意味があるのだろうか。バッテリーの内部損失分や安全性などを考慮し、実際に使える電気容量は少なくなるが、メーカーとしては当然、航続可能距離が0km表示となったとたんにクルマが動かなくなる事態は避けたいと考える。グロス値とNET値の差分は、大ざっぱにバッファ容量と言い換えることもできるが、内部損失や安全性の担保のみで7.4kWhの容量は大きすぎる。実際には、ここに走行用の予備電力が含まれていたというのが実状だ。

 ガソリンタンクでいう予備タンクと考えてよいだろうか。通常のタンク容量には含まれず、普段はないものとして扱われるが、非常時(ガス欠、EVの場合は電欠)には緊急移動用燃料(EVでは緊急走行用バッテリー)として真価を発揮する機能である。Elbil24のテストでは、航続可能距離が0kmを示した時点からバッファ電源で37kmの走行ができたと報告されていた。

 ちなみに、bZ4Xのバッファ容量の設定は、他メーカーのEVに対して大きく、トヨタらしい安全係数を高くとる思想が反映されたもの、と解釈することができた。そして、この思想がもうひとつの大きな問題点、bZ4Xの急速充電は1日2回までを上限とする、という制約につながったものと考えてよいだろう。

 バッテリーの充電は、電気を使った電池内での電子とイオンの移動を意味するものだ。リチウムイオン電池の場合を簡単に説明すれば、正極、負極間に通電(充電作業)することで、電子(マイナス電荷)が負極に取り込まれ、それによって電池内のリチウムイオン(プラス電荷)が負極の電子に引き寄せられことになる。逆の言い方をすれば、放電(電気の使用)は負極の電子が取り出されことでイオンが解放され、それによってバッテリー容量が低下することを意味している。

 急速充電は大きな電力をバッテリー内に供給することで、短時間内に電気容量を回復(充電)させる方法である。一方、通常の充電は、小さな電力(理想的にはバッテリー容量の10分の1程度が最適と言われている)で時間をかけて行うもので、大きな電力を使うためバッテリー内の負担が大きく、結果的にバッテリーの損耗(寿命の短縮化)につながることになる。

 急速充電を何回繰り返すとバッテリー寿命はこれだけ短くなる、といった因果関係は定かでないが、急速充電がバッテリーの短命化につながることは間違いなく、自動車メーカーの立場からは、頻繁に繰り返して欲しくない方式と言えるだろう。トヨタは、bZ4Xのバッテリーに10年または20万kmの保証を設定しているが、こうした意味からも、バッテリーの寿命に影響を与える急速充電の回数に制限を設けたことは理解できる。

 トヨタは、Elbil24のテスト結果なども踏まえ、バッテリー残量の表示(これまでは走行可能な航続距離の表示のみ)を追加したり、バッファ容量の設定や1日の急速充電回数の制約を見直したりと、bZ4Xをよりわかりやすく、より使いやすくするための改善を行っている最中だ。EVそのものが発展途上にあるだけに、これからも問題は発生するだろうし、それに対する改良も積み重ねられていくことになるが、トヨタは二酸化炭素の排出に関し、同時進行で燃料電池車や水素燃料車の研究・開発も推し進めているだけに、今後EVがどんな発展をしていくのか、目を離すことができない状況だ。


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