広島サミットに日本メーカーがクルマを提供できなかったのは痛い! 各国首脳が「BMW7シリーズ」に乗ったワケ (2/2ページ)

海外ではさまざまなモデルがアーマードカーとして活躍

 ちなみにアーマードカーは誰でも発注できるというものではない。ただ、過去にはたとえばVIP用として使っていたアーマードカーが、乗り換えなどで下取り車として市場放出され、そのまま中古車として展示場に並ぶことはあったようで、その時点では誰でも買うことができたようだ。「私も実際、古い話ですがボルボ960ベースのアーマードカーが中古車展示場に並んでいたのを見たことがあります」(事情通)。

※写真はノーマルのボルボ960

 ちなみに、「裏サミット」とも呼ばれ、G7広島サミットに日程をほぼ合わせて中国で開催された「中国 中央アジアサミット」では、中国現地メーカーとなる中国一汽の「紅旗(ホンチー)」ブランド車のみが首脳送迎車として使われていた。そもそも紅旗車は中国が毛沢東時代などバリバリの共産主義政権時代から「指導者のクルマ」として存在していた。そしてもちろん、習近平国家主席も紅旗車(もちろんアーマードカー)に乗っている。ちなみに中央アジア首脳が習近平国家主席と同じ車種に乗っていたわけではないようだ(もちろんアーマードカーとしての架装は行われているものと考える)。そもそも指導者のためのブランドなので標準車であってもアーマードカーとしてのノウハウは十分反映されているものと考えられる。いずれにせよ、会議の規模やレベルは違うが、中国にてアーマードカーとして架装された自国ブランド車で統一して中央アジア首脳を迎えていたとすれば、中国自動車産業と日本の自動車産業の勢いの差や、政府の「式典への意気込みや配慮」の差をまざまざと見せつけられたともいえるかもしれない。

 ロシアではプーチン大統領はロシアブランドとなる「アウルス」ブランドの大統領専用車に乗っている。この専用車が披露されたのは2018年5月の4期目の大統領就任式でのこと。2014年にロシアはウクライナのクリミア半島を一方的に併合し、西側諸国からの経済制裁が始まっていた。そのなかでもアウルスに乗るまではメルセデスベンツSクラスのアーマードカーが大統領車両だったのだが、「大統領が経済制裁している西側諸国のクルマに乗っていていいのか」という世論の高まりも受け、国営のNAMI(中央自動車エンジン科学研究所)で開発したと聞いている。その後、民間人向けのセナートというモデルがデビューしている。ロシア車だからといって侮ってはいけない。ある事情通は「ボディそして塗装の仕上がりだけみてもレクサス以上」と評価していた。

 中国やロシアはその政治体制(軍事大国であり、いわば独裁に近い)からみても、アーマードカー製造ノウハウは潤沢にあり(反政府活動などにより国内でテロに遭うリスクも高い)、そして安全保障面からも「国産」にこだわっているようである。

 今回というか、アメリカ大統領はどこへ行くにも専用車「ビースト」を持ち込んで使用している。見た目はキャデラックのような風貌だが、GM(ゼネラルモーターズ)のGMCというトラックブランドのトラックシャシーにセダンのボディを架装しているとされている。

※画像は先代モデル

 ちなみに日本でも、先代トヨタ・センチュリーがデビューした時には、「攻撃を受けてエンジンが損傷しても6気筒(先代はV型12気筒)でそのまま走る」というのが都市伝説として流れていた。また岸田首相の乗る現行センチュリーも首相専用車としてワンオフに近いアーマードカー仕様になっている。ほかにも政府所有として複数のセンチュリーベースのアーマードカーはあるようなのだが、今回の広島サミットで賄えるほどの台数はなかったようだと事情通は説明してくれた。

 クルマ好きのひとりでもある筆者としては、サミットのような規模の大きい国際会議においても、国産のアーマードカーがズラリとそろう光景は是非見てみたいと思っているので、今後に期待したいところである。

「お花畑」などとも揶揄される日本社会、それだけ平和と言うことも意味しており、アーマードカーというものが、自動車メーカー関係者にさえなかなか理解されないともいわれている。装甲車と聞くと戦車の一歩手前のような姿を思い浮かべてしまうが、見かけはセダンなどであっても、アーマードカーは同等のスペックを持っているのは間違いない。世界だけでなく日本国内も治安の悪化が顕著となっているので、残念なことなのかもしれないが、アーマードカーという存在が日本国内でも、さらに身近な存在になってしまうのかもしれない。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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渡 哲也(団長)、石原裕次郎(課長) ※故人となりますがいまも大ファンです(西部警察の聖地巡りもひとりで楽しんでおります)

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