この記事をまとめると
■国土交通省とトラック協会が画期的なイベントを開催
■その名も「大型トラック運転体験会&業界・企業説明会」だ
■目的は自衛官に物流業界への再就職を検討してもらうこと
元自衛官を物流業界に導く
昭和の時代には「陸上自衛隊に入れば大型車両の免許が取れる」といわれていたことから、バスやトラックのドライバーを目指す若者が多数自衛隊に入隊していたという。これを証明する統計などは存在しないが、すでに引退したバスやトラックの運転手のなかには、自衛隊の出身であるという人たちが相当数いたのは事実のようだ。
確かに、自衛隊はさまざまな大型車両を運用しているから、その任務に就くために公費で必要な免許の取得や、関連する知識の習得をサポートしてくれることは間違いない。しかも、企業の定年が60歳(再雇用で65歳)などといわれているなかで、自衛隊員は一佐(海外の軍隊でいう大佐)という階級の高級幹部職でも、58歳で定年退職することが定められている。
さらに、あまり知られていないが「士(二士、一士、士長の3階級で兵士に相当)」は2年あるいは3年ごとの任期制(任期付き自衛官)になっているから、さらに若い退職者が毎年多数出ているのだ。彼らは厳しい組織で鍛え抜かれた猛者であると同時に、有用な免許や資格を所持していることから、企業にとっては即戦力の貴重な人材になり得る可能性を秘めている。
「大型トラック運転体験会&業界・企業説明会」のようす画像はこちら
そこで、「2024年問題」で深刻なドライバー不足に悩む運輸業界を、彼らの再就職先としてマッチングするべく、国土交通省がトラック協会と画期的なイベントを企画、実施した。それが、2025年2月に埼玉県上尾市で行われた「大型トラック運転体験会&業界・企業説明会」である。
このイベントは、九州などで実施実績があるもので、今回主催したのは国土交通省の関東運輸局埼玉運輸支局と、一般社団法人埼玉県トラック協会だ。その目的は「物流業の担い手確保対策」として、退職予定自衛官や任期付き自衛官を対象に、最新の大型トラックの運転体験と物流業界の紹介を行い、再就職先として検討してもらうことにある。
トラックといえば陸上自衛隊であるが、本イベントは航空自衛隊、海上自衛隊も対象になっている。また、参加条件には必ずしも大型運転免許の所持を条件づけているわけではない。埼玉県トラック協会の役員が「自衛隊員は厳しい規律のなかで過酷な訓練を経験していることもあり、職務に対して熱意を持って向き合う姿勢が感じられる」と話していたことからもわかるように、自衛官の仕事に対する真摯な取り組み姿勢が、即戦力として期待されているのである。
「大型トラック運転体験会&業界・企業説明会」のようす画像はこちら
体験会では、まず運輸支局とトラック協会が運輸事業に関する行政や業界の取り組みについて説明し、参加者が再就職先としてトラックドライバーを選択肢に入れられるように、情報の提供を行った。次に、会場や体験車両の提供協力をしているUDトラックスが、最新の大型トラックを紹介したのちに、参加者はグループにわかれて運転を体験。その後、協会所属の運輸事業者6社が設けた個別ブースで、会社説明などの面談が行われた。
最新の大型トラックがもつ安全性、操作性に触れ、同じ大型車両でも実用性、効率性を優先した自衛隊車両との差を実感し、トラックドライバーに職業的魅力を感じた参加者も多数いたようだ。また、ブースでは活発なやり取りがあちらこちらで行われており、参加者の関心の高さが窺えた。このイベントは、今後全国各地で開催される予定とのこと。これまで日本の安全を支えていた自衛官が、今度は日本の物流を支えていくことになりそうだ。