この記事をまとめると
■商用車の日産ADが受注を停止した
■ADが生産と販売を終了する理由は売れ行きの低迷だ
■トヨタ・プロボックスに負けたことに加え需要をクリッパーバンにも奪われたと考えられる
日産ADはなぜプロボックスよりも売れなかったのか
日産は業績の悪化を受けて、経営再建計画を発表した。それによると人員を2万人削減して、17カ所の生産拠点のうち、7カ所を閉鎖するという。
その矢先に、商用車の日産ADが受注を停止した。販売店は以下のように説明する。「ADは生産を終了する見込みだ。5月上旬、本年(2025年)に生産する台数をすべて受注したから、すでに新車の販売を締め切った」。もはやADを新車で買うことはできない。
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ADは以前のサニーバンなどの後継車種として開発され、初代モデルはADバンの名称で1982年に発売された。それ以降もフルモデルチェンジを重ね、現行型になる4代目のAD(上級グレードはADエキスパート)は2006年に発売された。いわばボンネットを備えた伝統ある商用車だが、生産を終えることになった。
日産ADバンのフロントスタイリング画像はこちら
そしてADは、NV200バネットなどと併せて、2025年4月に値上げを実施している。つまり、値上げした直後に、受注を停止したわけだ。
ADが生産と販売を終了する理由は、売れ行きの低迷だ。前述のように現行ADの発売は2006年と古い。一方、ライバル車になるトヨタ・プロボックスの現行型は2代目で、2014年に登場した。プロボックスは設計が新しく、ADと異なりハイブリッドも選べる。プロボックスハイブリッドは価格が割安で、最上級のF・2WDが205万2000円だ。ノーマルガソリンエンジンのFと比べて、価格アップを27万5000円に抑えた。このようなプロボックスに比べると、ADは魅力が乏しく販売も低迷した。
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また、いまの日産は軽自動車に力を入れる。軽商用車は、軽乗用車のような三菱との共同開発ではなくスズキエブリイバンのOEMだが、売れ行きは堅調だ。2024年度(2024年4月から2025年3月)に、軽商用バンのクリッパーバンは1カ月平均で2288台を届け出した。
トヨタもダイハツ製軽商用バンのピクシスバンを扱うが、この販売台数は、2024年度の1カ月平均が659台と少ない。日産では、ADの需要がクリッパーバンに移ったと考えられる。
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ちなみにADの荷室の広さ(2名乗車時)は、荷室長が1830mm、荷室幅は1285mm、荷室高は940mmだ。クリッパーバンは、GXの場合で、1820mm・1280mm・1240mmになる。
このように、クリッパーバンは軽商用バンながら空間効率が優れ、荷室の数値はADとほぼ同じだ。荷室高はクリッパーバンが300mm上まわる。高速走行時の安定性などを重視するならADを選ぶ余地も生じるが、ビジネスで使う商用車だから、税金も安いクリッパーバンが魅力的だ。
以上のように、ADはライバル車のプロボックスに負けただけでなく、同じ日産のクリッパーバンにも需要を奪われた。日産の販売店でも「いまの商用車の売れ筋は、キャラバンとクリッパーバンだ。ADからこの2車種に乗り替えるお客さまも多い」とコメントした。