スカイラインGT-Rが「中途半端」な排気量を採用したのにはワケがある! 2.6リッターはレースで有利になるためだけに選んだ潔い数字だった (2/2ページ)

すべては勝利のために

ライバルの著しい進化を目の当たりにしてさらなる高出力化を決断

 ところが、開発途中で事態は一変する。同年のレースシーンでライバル勢の著しい進化が目の当たりとなったのだ。そこで開発陣は目標タイムを大幅に上方修正。1990年のデビューで富士1分30秒切りを新たな必達目標と定めた。当然ながら、これまでのパッケージでは到底その水準に達しない。綿密なるシミュレーションの結果、600馬力級の出力が必要と判断された。同時に、これほどのパワーを路面に確実に伝えるにはFRでは力不足と判断され、新たに開発されたFRベースの四輪駆動システム「アテーサE-TS」の搭載が決定。

 ただし、これにより車両重量は増加するため、そのぶんパフォーマンスの底上げが求められたのだ。最終的にエンジン排気量は2.6リッターまで引き上げられ、RB26DETTはレースシーンに投入されることなった(実際のレースではピストンの変更が許されていることから、ボアを1mm拡大したオーバーサイズピストンを採用。4.5リッター以下の区分けに収まるギリギリまで排気量を拡大している)。

徹底したレギュレーションミートなクルマ作りがレース制覇の理由

 当時のライバルたちの状況を見てみよう。

 代表格であるトヨタ・スープラは3リッター直6ターボを搭載していた。これに過給係数1.7を掛け算すると仮想排気量は5.02リットル。GT-Rよりふたつ上のクラスとなり最低車重は160㎏も重い1420kg。さらに駆動方式はFRであったため、排気量は大きくともその高出力、高トルクを受け止められない。このスペック差は、レースにおいて極めて大きなハンディキャップとなった。

 一方のR32GT-Rは前述したとおり、600馬力級の高出力とアテーサE-TSによる高いトラクション性能を両立。1260kgの軽量ボディに11インチ幅の太いタイヤを履き、安定したコーナリングと圧倒的な加速性能を誇った。この徹底的にレギュレーションを読み込み、最大限に活用する開発姿勢こそがR32GT-Rの快進撃の原動力となったのだ。デビュー以降も開発の手は緩むことはなく、耐久性、信頼性、さらには高回転域でのレスポンスとトルク特性まで磨き込まれるなど、すべてが勝利のために最適化されていた。ドライバーにとって扱いやすく、つねに高いパフォーマンスを発揮する“戦うエンジン”──それがRB26DETTだったのである。

レースを制し市販車としても伝説となった存在

 こうした背景を知れば、RB26DETTがなぜ多くのクルマ好きを惹きつけたのかは自明だろう。「レースで勝つ」ことだけを純粋に目指して開発された潔さが、R32GT-Rに独特のオーラを与えていた。価格は当時としては高額な445万円。それでも最終的には4万4000台に迫る販売台数を記録したのは、単なる速いクルマという枠を超えた価値がそこにあったからだ。

 RB26DETTの2.6リッターという排気量は、偶然でも妥協でもない。グループAレギュレーションを徹底的に読み込み、勝つための最適解として導き出された必然の数字だった。日産の技術力とレースへの情熱を象徴するこのエンジンは今日に至るまで世界中のファンから語り継がれ、愛され続けている。R32GT-RがグループAの舞台で残した伝説は、数字の裏に潜むこの“戦略的排気量”と、開発陣の飽くなき勝利への執念によって築き上げられたものといえるだろう。


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