BMWを退任するまでに数々の衝撃作を残す
誰も見たことがないオープンスポーツ
次に紹介するのは、2003年登場の初代「Z4」です。実質的には「Z3」の後継に当たりますが、そこに前述の「Z9」の要素がふんだんに盛り込まれました。
当時は賛否両論あったクリス・バングルのデザインがいまみたらどれも名車になっていた画像はこちら
ボディの基本は、ロングノーズとリヤに荷重を感じさせる伝統的ロードスタースタイル(のちにクーペも追加)ですが、ショルダー部に施された強いキャラクターラインと、ドア下部のラインの組み合わせが大きな動きを作り出し、その流れが豊かなリヤフェンダーに繋がることで従来にない佇まいを生み出しました。
また、Aピラーに続くナナメのラインは、あたかも車体を前後に2分するような強い印象を与えます。いずれも、ボディの構造自体に揺さぶりを与える氏の真骨頂と言えるでしょう。
ハッチバックスタイルにも革新をもたらす
4台目に取り上げるのは、2004年登場の初代「1シリーズ」。コンセプトカー「BMW CS1 Concept」に沿ったボディは、ロングノーズとリヤに重心を置いたFRスタイル。
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コンパクトサイズには似合わないほどの強くシャープなショルダーラインはそのロングノーズを生かしたもので、ドア下の上向きのラインの組み合わせは「Z4」と同様の斬新さ。結果、じつに筋肉質なボディとなっています。
大きな「顔」を作る厚みのあるシャープなヘッドライト、縦型のテールランプによる立体的なスタイルは、ライバルとなるゴルフとはまったく異なる世界観を作り出しました。
「売れ線」にも対応する柔軟な発想
最後に取り上げるのは、2005年登場の5代目「3シリーズ」です。日本人デザイナーの永島譲司氏が描いた原案は、先に紹介したモデルに比べると意外なほどスッキリしています。しかし、パネルラインに合わせたシャープなヘッドライトや立体的なテールランプ。ショルダーに引かれたシンプルなキャラクターラインなど、構成自体は7シリーズなどと大きく変わりません。
当時は賛否両論あったクリス・バングルのデザインがいまみたらどれも名車になっていた画像はこちら
それでも最量販モデルとして「とっつきやすい」まとまりのよさを与えるあたりに、氏の柔軟性を感じさせます。したがって、同車がワールド・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したのも不思議ではありません。
さて、こうして振り返ってみると、クリス・バングルのデザインは単に表面的なキャラクターラインを引くだけではなく、それがボディの構成・構造自体に及んでいることに気付きます。つまり、スタイルを根本から変えているのです。
氏は2009年にBMWを退任しましたが、その後の少々退屈なBMWデザインを見れば、その唯一無二な才能が自ずと証明されるところなのです。