駐車場の形式は一緒なのになんで国によって駐車の向きが違う? 「前向き」「後ろ向き」が決まる要因とは (2/2ページ)

日本の駐車文化がじつは先進的だった

 また、構造的にもバック駐車のほうが駐車しやすい。前輪が操舵輪となっている一般的な自動車では、前進時に内輪差が生じるが、バック時にはこの内輪差の影響を受けにくい。とくに、狭いスペースでは前向き駐車よりもバック駐車の方が駐車しやすい。

 加えて、駐車枠の正面には壁や縁石、植栽が配置されていることが多く、前から駐車するとバンパーやナンバープレートを接触させる危険性がある。一方で後退なら多くの車両のリヤに装備されたカメラやセンサーが役立ち、距離感をつかみやすい。

 近年、この駐車の悩みを解決する技術革新が急速に進んでいる。ADAS(先進運転支援システム)を中心とした高精度なセンサー技術とAIの活用が進んでいるのだ。日産のプロパイロットパーキングやBMW miniのパーキング・アシスト・プロフェッショナルでも並列・縦列駐車をサポートし、前向き駐車もアシストしている。

 また、最近の電気自動車ブームでこの問題が注目されている。それはEVの充電時に起こる。なぜなら、充電するときはEVの構造次第で前向き駐車かバック駐車かが決まるからである。EVの充電ポートが前にあるか後ろにあるかで駐車方向が指定される。

 日産リーフやホンダN-ONE e:はフロント正面に、日産アリアやレクサス、トヨタ bZ4Xはフロントフェンダー近くに充電ポートがあり前向き駐車が便利だ。他方、テスラや日産サクラなどは充電ポートが車両後部にある。バック駐車すれば、充電ケーブルを後ろから挿しやすく、利便性が高い。さらに、充電器からの充電ケーブルの長さがマチマチなので、ときに届かないこともあり、充電時の駐車向きには充電ポートの位置を考慮する必要がある。

 興味深いことに、電気自動車の充電ポート位置を見ると、各国の駐車文化とは異なる実用的な判断が優先されていることがわかる。前向き駐車が主流のアメリカのテスラは充電ポートを車体後方(左後のフェンダー上部)に配置している。これはバック駐車を前提とした設計だ。一方、バック駐車が主流の日本の日産リーフは、充電ポートを車体前方に配置している。このように、充電ポート位置は駐車文化よりも、充電インフラの設置状況や使いやすさが優先されて決められているようだ。

 しかし最近、アメリカでも変化の兆しが見えている。AAA(American Automobile Association)など一部の自動車団体が安全性の観点からEVのみならず日本のようなバック駐車を推奨し始めており、日本の駐車文化がじつは先進的だったという評価も生まれている。

 以上のことより、日本の駐車方法がバック主流となった背景には、道路環境や車両設計、安全意識などが複雑に絡んでいることがわかる。狭いスペースを有効活用し、事故リスクを減らすための合理的な選択が、長い時間をかけて習慣として根付いたのだ。一方で、海外のように前から駐車するスタイルも、条件次第では利便性が高い。

 今後、自動運転技術の進化や駐車場の設計変更によって、駐車方法の選択はより自由になるだろう。いずれにせよ、日本の駐車事情は、独自の環境と文化が生み出した興味深い事例といえるだろう。


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