まさにベテランドライバーの域
たとえば、一方通行の裏道を時速30km前後で走行中、左側に駐車するクルマの運転席のドアが少し開いた。ドライバーは後ろを振り返り、降車しようとしている。このときにテスト車は、少し速度を下げて、進路を若干右側へ変えた。駐車車両のドアが開いたときに、回避する準備をしているのだ。別の場面で路上に駐車する車両も、上手に避けていた。この微妙な操作は、従来の運転支援機能を超えている。
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横断歩道の脇に歩行者が立っていたときは、停止して横断を促す。歩行者が立ち止まって横断しないときは、安全を見計らってから発進した。狭い道の左側を歩いていた人が、右側(車両側)を振り向いたときは、急に渡りはじめることを想定して速度を少し下げてブレーキを作動させる準備をした。
マナーも守り、ゼブラゾーンや横断歩道の上では停車しない。渋滞時でも、前方に十分なスペースができて、横断歩道上で停車しないことを確認してから発進した。
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ただし、信号が変わり、停止線を跨いで停車する場面はあった。前方の車両が裏通りの交差点を渡り終えた直後、急に減速して、ほぼ同時に進行方向の信号が黄色に変わったからだ。黄色信号の点灯時間について、開発者は「1〜7秒とばらつきが大きい」という。裏道ではすぐに赤に変わるから、少し強く減速して、停止線を跨いで停止した。
この状況判断も的確だ。停止線の手前で止まるには、急ブレーキになって追突される危険が生じる。逆にそのまま進むと赤信号で渡ることになってしまう。法規やマナーを守りながら、安全運行を最優先させて柔軟に運転していた。
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以上のように次世代プロパイロットは、ベテランドライバーのような運転をする。事故の危険を想定した「かもしれない運転」を常に行い、開発者は「曲がりくねった首都高速道路などでは、壁に反射するブレーキランプの光も検知する」という。死角に入るカーブの前方で、壁にブレーキランプの赤い光が反射すれば、渋滞が発生している可能性が高いからだ。
開発者が「今後の課題」と指摘したのは、横断歩道の右端(対向車線側)で歩行者が立ち止まったときなど、過剰に反応して反対側(上記の場合は左側)へ進路を大きく変える傾向があることだ。開発者は「危険を避ける操作が必要以上に大きくなる場合がある」という。
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このような解決すべき課題は見られるが、次世代プロパイロットの制御は正確だ。詳細な地図データなどが不要になることも注目される。AIを中心にしたシステムが、カーナビを見るドライバーと同様に運転するためだ。普通のカーナビが装着されていれば、その道案内に基づき、的確な状況判断をしながら運転する。
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そして、次世代プロパイロットには、さまざまな発展性がある。たとえば、視覚に加えて聴覚の機能をもたせてAIが判断すれば、ハンディキャップのある人たちを支援する進化したツールになり得るだろう。盲目の人がヘッドフォンを通じて前方の障害物や人の流れを正確に知ることができれば、あらかじめインプットされた目的に向けて、自由に安心して出かけられる。
逆にいえば、人々を不幸にする技術に発展する危うさも秘めている。人を見わけるどころか、人種や国籍まで判断して、自律的に攻撃をしかけるマシンの開発を可能にするかもしれない。このような悪用を阻止することも、今後の重要な課題だ。テクノロジーは、クルマに限らず、人々を幸せにするものでなければならない。