タイヤが原材料に逆戻り!?
気になるタイヤを”戻す”という方法だが、ブリヂストンが我々に見せてくれた施設は、2階建ての建物ほどのサイズとなっている巨大な「実証機」と呼ばれるもの。しかし、その90%ほどが白幕で隠されていた。聞くと、「この設備がある建物には普段、ごく一部の人しか入れず、この機械も機密の観点から見せられません。撮影もNGです。今日は取材会なので入室だけは許可しました」とのこと。
よって写真はないが、これがタイヤを”戻す”ために必要な設備なようで、ENEOSと共同開発によって生まれたものなんだそう。形のイメージは「巨大なミキサーのような」と表現すればいいだろうか……?
仕組みとしては、この設備の上部からタイヤを分解して作られたチップを投入し、機械内で熱入れなどのさまざまな処理を行い、タイヤを熱分解(油化)する。するとなんと、タイヤとして使われていたゴム(再生カーボンブラック)とオイル(油分)が分離した状態で取り出されるのだそう。簡単に言えば、タイヤが製造する前の、原材料に近い形に”戻る”のだ。これが、先ほどから述べているタイヤを”戻す”という意味の答えだ。ちなみに、ワイヤーなどは分離され、また別で取り出され、鉄として分別される。
ブリヂストンのタイヤ水平リサイクルによって取り出された素材画像はこちら
タイヤはご存じのようにゴムだけでできているわけではなく、天然ゴムや合成ゴム、ワイヤーやそのほか繊維などなど、複数の化合物からできているので、原材料レベルにまで戻すのは相当に難しく、課題が多い。したがって、こういった発想自体は昔からあったそうだが、1メーカーだけではどうにもならず、一緒に協力してくれる企業の存在も不可欠。ブリヂストン1社だけでは実現しなかったというのが実情だ。
これだけ聞くと、まさにタイムマシンのようなもの。夢のようなリサイクルだが、これを経て、いったいどうするのか。
ブリヂストンとENEOSでは、この熱分解によって生まれたリサイクル素材であるゴムやカーボンブラックなどを、もちろんタイヤに再利用して販売し、寿命を迎えたタイヤを再び素材にまでリサイクルし、再度タイヤとして流通……文字通りまさに水平にリサイクルするのが目標だ。さらに、ここで生まれた油分は化学品に変換し、こちらも再度使用する想定とのことで、リサイクルして終わりではなく、そこからさらに先の展開も計算済み。実現すれば、ほぼ一切の無駄なく、タイヤをグルグルと循環させられるのだ。
ブリヂストンのタイヤ水平リサイクルのイメージ画像はこちら
この実証機に入れているタイヤのチップはブリヂストン製タイヤ以外も含まれていた。聞くと、どのブランドのタイヤにも対応しており、リサイクルの過程においてブランドは関係ないとのことだ。
とはいえ、この研究は2022年より始まったそうで、まだまだスタートしたばかり。しかし、ブリヂストンが協力するソーラーカーチャレンジに出走する東海大学の車両などで使われているタイヤには、すでにここから取り出した素材を投入しているそうで、タイヤの水平リサイクルがリアルな現場で検証され始めている。
ソーラーカーチャレンジで使われるブリヂストンのタイヤ画像はこちら
そんなブリヂストン技術センター内に設置された実証機だが、じつは2025年11月、岐阜県関市にてこの設備よりも大型な、タイヤを熱分解できる実証プラントを建設し、より本格的にタイヤの水平リサイクルを加速させる予定としている。稼働は2027年9月を目標としているそうだ。実証機では実験として少量しか処理できないが、岐阜県のプラントが完成すると、1年間で7500トンの廃タイヤの処理ができるスペックになるとのこと。
岐阜県関市の実証プラントのイメージ画像はこちら
ここでリサイクルされたゴムや油分が再びタイヤなどに再生されれば、まさにブリヂストンが思い描く水平リサイクルの構図が完成することになる。
限られた資源をいかに無駄なく循環させるかが昨今の工業分野ではより注目されている。ブリヂストンのタイヤの水平リサイクルは、自動車やタイヤの分野に限らず、さまざまな分野からも注目されるに違いない。今後の展開に期待せずにはいられない。