【試乗】BEVかディーゼルMHVか? アウディ「S6スポーツバックe-tron」と「Q5エディションワン」に一気乗りしてパワートレインの現在を考える!! (2/2ページ)

果たしてEVにスーパーカーのような速さは必要か?

 S6スポーツバックe-tronのサスペンションは硬い。強力なトルク、クワトロのトラクション、高い走行性能にバッテリーを積載する重い車重を支えるため、BEVの常でバネレートが硬い。加えてタイヤ、ホイールも頑丈なので、ソフトでしなやかなサスペンションに設定するのが困難なのだ。

 また、後席はバッテリーを搭載したフロアゆえ足もと高が高く、着座姿勢が辛い。さらに、スポーツバックの流麗なルーフラインがヘッドクリアランスを狭くしている。このあたりはすべてのBEVに共通しているのだが、一部中国製BEV車では、足もとのバッテリーセルを移設しフロアを深くして解決しているものもある。BYDのシールなどは足まわりの味付けも最大公約数的で許容できるものだった。そう考えると、S6スポーツバックe-tronは、アウディのフラッグシップモデルとしてはいささか説得力に欠ける。

 4輪駆動クワトロ制御は加速初期に後輪で駆動をかけ、制動時も後輪から回生し始めることでピッチングを抑え、車両姿勢を安定させている。旋回時の駆動力配分もクワトロで培った駆動配分技術を盛り込みスムースな旋回を可能としている。雪道の低ミュー路でも安心できる実績が詰められているはずだ。

 S6スポーツバックe-tronを走らせて、改めてBEVの存在意義が問われているのだと思う。BEVにスーパーカーのような速さは必要か? それはユーザーが求めているBEVの姿なのか? 高性能を謳うBEVを試乗するたびに疑問に感じている。

 次にQ5エディションワンに乗り換えた。Q5にもBEVのe-tronがラインアップされているが、エディションワンは2リッターの直4ディーゼルターボエンジンに電動モーターを組み合わせたMHEVの限定車として送り出されている。

 多くのハイブリッド車がガソリンエンジンとモーターを組み合わせており、欧州車はハイオクガソリンの給油がマストだったので、ディーゼルエンジンと組み合わされるのを多くのユーザーが待ち望んでいたはずだ。

 ディーゼルエンジンは重く、コストも高いことから安価なガソリンエンジンと組み合わせるという理由をよく耳にしたが、マツダを始めようやく取り組むメーカーが出始めてきたのは歓迎される傾向だろう。

 搭載されるのは2リッター直4ディーゼルターボエンジンで150kWの最高出力と400Nmの最大トルクを発揮。これをフロントに縦置き搭載し、7速Sトロニックトランスミッションが連結され、48VのMHEVプラスシステムと組み合わせている。MHEVプラススシテムはPTG(パワートレインジェネレーター)とBAS(ベルト駆動式オルタネーター)を組み合わせ、発進初期に電動で走り出すフルハイブリッド車のような特徴をもたせている。

 そのモーター出力は最大18kWと小さいが、230Nmのトルクを出せるので、走り出しには十分だ。走り出して少しするとディーゼルエンジンが稼働。それも静かで低振動であり、ドライバビリティも優れている。ディーゼルエンジンの弱点であるアクセルオン時のレスポンスをもモーターで補う。加減速をスムースに行えるし燃費にも貢献する。WLTCモードで16.1km/Lを達成している。それでも3.3リッター直6ディーゼル+MHEVのマツダCX60の18〜19km/Lには及ばない。

 伝統的なクワトロのネーミングは引き継がれているが、そのシステムは進化しており、Q5エディションワンではセンターデフをもたない。エンジン縦置きながら前輪駆動ベースでハルデックスの電制カップリングを介して後輪に駆動力配分する。そのため、センターデフ方式の直結感やスムースさとの両立は難しい。

 ディーゼルターボとMHEVの組み合わせにクワトロシステムを搭載しているのは魅力だった。雪道の走破性もアウディ社のノウハウで高次元にあるだろう。あとは実燃費の面でマツダCX-60と対等なら素晴らしいのだが……。


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中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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マツダCX-5 AWD
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海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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