この記事をまとめると
■ジヤトコが前後に自社開発のeアクスルを搭載した試作車を製作している
■前後で独立したeアクスルをもち自由な駆動力配分が可能となっている
■電動車ならではの自由度でクルマの新しい楽しさを示した
未来のホットハッチはこうなる?
オートマチックトランスミッション、CVTで世界的にも大きなシェアをもつ部品メーカーであるジヤトコ。日産自動車との関係も深い同社は、最新世代のBEV用「3-in-1」ユニット、同じく最新世代e-POWER用「5-in-1」ユニットも手がけている。
そんなジヤトコが、興味深い試作車を製作している。レーシーなラッピングを纏った、まるでカップカーのような出でたちの3代目日産マーチが展示されていた。
ジヤトコがeアクスルを搭載した試作車を開発画像はこちら
車内にはロールケージが張り巡らされており、足もとに目をやればハイグリップタイヤが。サプライヤーの試作車としては異色とも思えるこのマーチであるが、聞けばジヤトコが開発中のeアクスル(電動駆動モジュール)を搭載しているのだという。
ボンネットが取り外されたエンジンルームは、遠くから一瞥するとその中身が空洞かのように見えるが、近寄って覗きこんでみれば、そのかなり低い位置、サブフレーム付近に電動ユニットが鎮座している。
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いかにもマシニング加工そのままといった見てくれのユニットカバーや、お手製感漂うマウント類などを見てもわかるように、これはあくまで試作車。
モーター・インバーター・ギヤボックス、コントロールユニットなど、ユニットのほぼすべてをジヤトコ社内で内製するというが、いまのところ量産に繋げる予定はなく、あくまで技術的、人材的なリソースに磨きをかけるための取り組みという側面が大きいようだ。
さて、クルマのリヤ側にまわると、トランクルームにもエンジンルーム同様に電動ユニットが低く配置されている。そう、このクルマは前後で独立したeアクスルをもつ4WD仕様なのだ。エンジン車でいえばツインエンジンである。
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これらの駆動ユニットは、車内に配置されたコントローラーで前後の駆動力配分を自由に設定することができる。その気になれば限りなくフロント、あるいはリヤ100%に近い配分も可能。いわば、4WDからFFにもFRにも化けることができるのだ。これは前後で独立した駆動ユニットをもつ電動車だからこそ実現した面白さだろう。
現時点では左右の駆動力配分を調節するトルクベクタリング機能のようなものはないというが、それはソフトウェアの領域が担う部分が大きいところでもある。だからこそ、サプライヤーがハードウェアを自社で製造する技術があるということに意義深さがあるのだ。
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もちろんというべきか、この車両は技術展示のためのモックアップなどではなく、実走試験も繰り返されている。スーパーGTドライバーのロニー・クインタレッリ氏がクローズドコースにてスポーツ走行を試す動画が動画サイト上でも公開されており、その完成度の高さを伺わせる。
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昨今、電気自動車はつまらない、なんて声をよく耳にする。このマーチ・ベースの試作車にしても、確かに内燃機関ならではの楽しみはないかもしれない。しかし、極めて自由度の高い前後駆動力配分や、ごく低い位置にマウントされたパワーユニットがもたらす低重心といったフィーチャーは、むしろ電動車ならではのものということもまたひとつの事実だろう。
「電動化でクルマがつまらなくなる」なんていわずに、このような電動車ならではの新たなクルマの楽しみが生まれることを期待しようではないか。