いまさら馬力を求める必要がない
一方、軽自動車に対する最高出力64馬力という自主規制は、今日も続いている。
そもそものはじまりは、やはり排出ガス浄化対策が一段落したあと、まだ軽自動車のエンジン排気量が550ccであった時代に、スズキから最高出力64馬力のアルトワークスが発売され、馬力競争の火ぶたが切られた。
高性能エンジンのひとつの目安として、1リッターで100馬力を超えたらかなり優れるといわれている。当時のアルトワークスの性能は、排気量1リッターに換算すると116馬力に相当し、ターボチャージャーで過給されているとはいえ、とてつもない高性能車といえた。
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軽自動車という比較的身近な価格帯で手に入れられる車格で、壮快な運転を味わえる世界が、このクルマによって切り拓かれたのである。
とはいえ、元来は日常の足として日本特有の存在となった軽自動車における、それ以上の馬力競争は度を超えることになり、自動車メーカー間で自主的な規制が行われることになった。
では軽自動車だけ、なぜ今日も最高出力に対する自主規制が残されているのか。理由は定かではない。ただ、軽の電気自動車(EV)が登場することにより、最高出力を競うことが軽としての本質ではないことが明らかになりつつある。重視されるべきは、最大トルク値とその特性にあることがわかった。
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軽EVの最大トルク値は、ガソリンエンジンのターボ車より優れている。それによって、発進や加速がラクにでき、快適に利用できる。また、スズキが採り入れたマイルドハイブリッドにより、アイドリングストップからのエンジン再始動が不快でなくなり、また満たされた加速を得ながら、燃費も改善できるようになった。
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つまり、最高出力の数値にこだわる意味は失せつつある。それならば、64馬力の自主規制はなくしてもよいはずだが、いまさら登録車のようにあえて規制を解除しなくても、もはや64馬力を超えるようなエンジン車を開発したところで、利益をあまりもたらさない現実が見えてきたともいえるだろう。
軽EVなら、64馬力にこだわらなくて胸のすく加速を得られ、環境性能に優れ、誰に後ろ指さされることなく壮快な運転を楽しめる。それだけ軽自動車の利用者は、先に成熟しようとしているのではないか。