エンジニアが語るEJ20の苦難
──EJ20エンジンとの関わりについて教えてください
小澤「2003年にSTIに入社しました。もともとWRC用のエンジン開発をやらして欲しいといことで入社してきているので、WRC用のEJ20エンジンの開発をしていましたし、並行してP-WRC用のエンジン開発も行っていました。2005年からは開発したエンジンとともにWRC全戦に帯同していた感じですね。そのあと、WRC参戦が終了するまで携わっていました」
長田「私は1992年に入社してすぐにスバルのエンジン設計部に行ってWRC用エンジンの開発に携わってきました。1992年にインプレッサの量産車が発表されて、1993年にインプレッサ555がフィンランドラリーで投入されるというタイミングから開発に携わっています。量産エンジンには携わっておらず、モータースポーツエンジンだけを開発してきました」
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長田「そのあと98年からキャロッセさんがスーパーGTに参戦したときは、スバルとしては大々的にやっていなくて、STIがWRCベースのエンジンやパーツを供給していましたのでその手伝いをしていました。同時にWRC用エンジンの開発を行っていました。2008年にWRC参戦が終了し、同時にリーマンショックでキャロッセさんもスーパーGTを撤退してしまいました。しかしそのままではモータースポーツの火が消えてしまうということで、レガシィでGTを走らせようというプロジェクトが始まり、今のベースとなるエンジン開発を行いました。レガシィは最初AWDでレースに出すということでAWD関連の開発も行いました」
小澤「その当時エンジン開発って何人でやっていたと思います? キャロッセさんのサポートをしながら、プロドライブからアイデアが来たりしても結局本体を組むのは日本側なんですね、それを4人でエンジンの開発設計をしていましたね。実験側で3人くらいだったので全部で7人くらいで、STIのエンジンを開発・評価・実験をしていたんですよね。ものすごく大変でしたけど、皆さんやる気がみなぎっていましたし、マンパワー的にも、それぞれの能力がすごかったからできたというのもありました。なにか閃いたら即行動という感じで開発していましたね」
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吉原「自分は皆さんより遅くて2015年にSTI入社で最初はパーツ開発でしたり、特装車の開発に携わっていました。2016年後半から徐々にスーパーGTに絡んでいったという感じですね。2017年〜18年はGRCと並行してGTの開発も行っていました」
──量産車とラリー車でのEJ20エンジンでは何がどう違うのですか?
長田「基本的な構造は同じです。レギュレーションで許されているクランク等の主運動部品や吸排気系には手を加えています。フィードバックで言うと、GC型エンジンのSTIバージョン3以降の吸気系はラリー車のレイアウトが踏襲されています。インマニ下のストレートでターボチャージャーにつながる吸気パイプはWRCでレガシィの時代から採用していて、それが量産車のインプレッサに採用されています。さらにツインターボになって、その吸気パイプが左右のターボチャージャーにつながるレイアウトもまさにラリーから派生したと言えます。」
──ラリーとGTのエンジンで違うところはどのあたりでしょうか?
長田「潤滑系が大きく違いまして、ラリーはウェットサンプといってエンジンの下にオイルパンがある、普通のエンジンと同じ仕組みですけど、GTでは低重心にするためにドライサンプ形式になっています。そこが一番違います」
小澤「エンジンのブロックも基本設計のクローズドデッキのエンジンのままです。理由としては、クローズドデッキが一番剛性が高いからです。WRCはレギュレーション上量産ブロックと量産ヘッドを使わなくてはならないので、結局量産エンジンを使うことになります。インプレッサになってからは本当に何も変わっていないですね。2008年には新しいエンジンも開発してテストもしていたけど、2008年にラリー活動が終わってしまったので幻のエンジンとかもありましたね。そのあと、GT用のエンジン開発が進んでいきました」
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──長年使われてきたEJ20エンジンのストロングポイントとウィークポイントは?
小澤「ストロングポイントはやはり低振動低重心が一番ですね。レーシングカーに入れるには本当に低重心になるのはいいことです。一方で、左右で分割することや、ヘッドやオイルパン部分など分割できる部分が多いことで剛性が出しにくいところもあります。さらにエンジン自体の横幅が大きくなったり、インマニが長くなってしまったりと大変な部分もありますね。吸気パイプが長くなったり、排気管が長くなったりすることで多少デメリットは出てきます。しかしそれを補うような設計しています。エンジン横幅も長いので足まわりの設計にも工夫をこらす必要が出てきますね。ただそれらを克服してできたときは、『意外とできるじゃん』と思いましたね」
小澤「限られた場所にエンジンや足まわりを、最適なレイアウトにしていくにはどのようにするか。というのを突き詰めていった結果が今の形で、車体剛性とかにも問題は無い。足のスパンが短い部分もありますけど、あと数センチ伸ばしたからといって、性能がグンとあがるかといえば、そこまで上がるような領域でもない。意外と水平対向のネガな部分は無くなったなという印象です」
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──現在のスーパーGTで戦うBRZのエンジンは、エンジンルームの奥底にあり、バルクヘッドに埋もれるようなレイアウトになっていますが、メンテナンスとか大変なのでしょうか
小澤「マシンの設計を行っているR&Dスポーツがレガシィから始まり、何台もスバル車でのレーシングカーの設計を行ってきたことで、整備性やエンジンの配置、周囲の補器類の設置場所なども考えてくれて、今に至っていると思います。最初の頃は大変だっただろうなと思いますよ。でも何台も手がけたことでメンテナンス性は上がっていますし、エンジン交換も早く行えるようになっています」
──スーパーGTでトラブルがいろいろ出たときもありましたが、その辺の対策などはいかがでしたか?
吉原「ここ数年のトラブルが出たときに設計担当をしていましたので、そのときはいろいろ大変でしたし、急いで対策を考えていました。18年〜19年あたりで結構トラブルが出たときも関わっていました。レースで起きたトラブルをシミュレーション上で再現できるようにも考えていましたね。そうすれば対策のゴールも近くなっていきます。数値を変えて壊れる事象を再現して対策を考えていきました。その事象がどのようにして起きたかがわかると、解析を行って、対策を考えて対策品を作っていくという感じでやっています」
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