エンジン車は高コストを許容できる富裕層の嗜好品へ
仮に新車販売の大半がEVになると、化石燃料を購入するユーザーは非常に限られる。そのため、ガソリンスタンドのようなインフラは壊滅的になるだろう。結果として、ガソリンを独自ルートで入手できる超富裕層が趣味として大排気量エンジンを積んだスーパースポーツを乗りまわすという未来がやってくるだろう。
見方を変えると、エンジン車を売りたい自動車メーカーは、1台のエンジン車を売るために9台のEVを販売する必要がある。エンジン車に乗りたいユーザーは、複数のEVを抱き合わせで購入する必要があるかもしれない。そうなれば、資産格差が自動車趣味の格差となってしまうのだ。
もしくはe-fuelと呼ばれるカーボンニュートラル燃料を主流とすることで実質的なCO2排出を減らして、90%減の目標を達成するという未来も予想できる。ただし、e-fuelのコストは化石燃料の3~5倍といわれている。ここでもエンジン車を乗りまわせるのは金銭的に余裕のある富裕層以上に限られる。庶民は再生可能エネルギーで発電した電気を使うEVに乗るのが経済合理性に沿った判断……ということになりそうだ。
e-fuelのイメージ画像はこちら
もっとも化石燃料が生き残る未来もあり得なくはない。そこでポイントとなるのはCO2回収装置による、カーボンネガティブの実現だ。
そのコアテクノロジーとなる一例が、2025年のジャパンモビリティショーでマツダが展示したCO2回収装置だ。マツダのCO2回収装置は、現時点で20%程度の回収率ということだが、排ガスに含まれるCO2を90%以上回収できるようになれば、安価な化石燃料を燃やすエンジン車であっても、EUの目標を達成することが可能だ。
マツダのCO2キャプチャー装置(筆者撮影)画像はこちら
さらに、タンク内に集めたCO2を利用して、プラスチック製品などを作ろうという野心的な挑戦でもある。化石燃料の消費が減り、樹脂の材料となるナフサの供給量が減ったとしても、CO2回収装置が実現すれば、プラスチック製品の持続可能性も高まるという一石二鳥のテクノロジーである。とはいえ、CO2回収装置もよほど安価にならない限り、庶民が愛用するコンパクトカーに搭載されるというのは非現実的だろう。
結局、庶民は安価でシンプルなEVにシフトせざるを得ず、富裕層だけがエンジンを味わえる未来しか見えてこない。エンジン派の自動車ファンがEUの方針転換を歓迎することは否定しないが、だからといって庶民がいつまでもエンジン車を愛用できると期待してしまえるような話ではないとも思うが、いかがだろうか。