ホンダが解決すべき問題点
もっとも、三部社長の立場を考えると、理解すべき面もある。三部社長は本田技術研究所の出身であり、研究所と本田技研工業の間に横たわる歴史的な構造問題を誰よりも知っていたはずである。研究所は失敗を恐れず挑戦する場であり、市販車の生産・販売は失敗が許されない実務の場である。この分離には、本田宗一郎以来の思想がある。しかし、技術も市場も急速に複雑化するいま、開発・生産・販売がワンストップでつながらない体制は、むしろ足かせになりつつある。
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八郷社長体制で両者をひとつにまとめようとしたがうまくいかず、再びわかれた。この迷走自体が、ホンダの構造問題の根深さを物語っている。
さらにホンダには、もうひとつの歴史的な“聖域”がある。川本社長時代に築いた世界6極体制、すなわち地域ごとの独立性を重視する分散型経営である。これはかつて、ホンダの小まわりのよさを生み、経営危機を乗り越える原動力にもなった。だがSDV時代には、この分散型の強みが逆に弱みに変わる。地域ごとに売れる仕様を優先した結果、プラットフォームは統一されず、欧州・北米・中国で仕様差が拡大し、市販タイミングはずれ、ソフトウェアも統合されない。結果として、高コスト体質とブランド戦略の不在を招いている。
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つまり、三部社長が直面しているのは、単なるパワートレインの置き換えではないのである。本田宗一郎が作った「研究所と技研」という聖域、そして川本時代に築いた「地域独立」という聖域、その両方を壊して再構築しなければならない。さらにスクラップ&ビルト的に前任者の技術を継承しないホンダらしい風土もいまの時代には逆行している。これは歴代経営者のなかでも、もっとも過酷な構造改革である。
だからこそ問題の本質はBEVではない。BEVを見直しHEVを充実させれば事業が健全化する、というほど話は単純ではない。ホンダは歴史的に、独自路線を貫き、車種ごとに先進技術を最適配分してきた。それは一台ごとに見れば魅力であっても、事業全体で見れば「単品バラ売り」に近い構造を生みやすい。
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これからのホンダに必要なのは、単品ごとの巧さではない。操舵や制動の質感に代表されるホンダ独自のダイナミッククオリティを、SDVというデジタル基盤の上でどう再定義し、グローバルに一貫したブランドとして再構築できるかである。そこに成功しなければ、HEVでもBEVでも同じ問題を繰り返すだろう。
その意味で、0シリーズは失敗作と決めつけるべきではない。技術の中身には、これまでのホンダにない先進性がある。むしろ重要なのは、それをいまのままの形で無理に出すことではなく、水面下で成熟させ、より現実的で市場に届く商品として再構成することだ。姿かたちは変わっても、その技術思想が将来どこかで結実することを期待したい。