BEVが環境性能だけではないことを証明してくれる
さらに印象的だったのが、ワンペダル制御の完成度だ。アクセルオフ時の回生ブレーキはかなり強力で、最初は少々利きすぎにも感じる。だが、箱根の下りワインディングに入ると、その印象が一変する。ステアリング左側だけに備わるパドルを引くことで回生力をさらに強めることができ、長押しすると停止直前まで減速可能。つまり、ブレーキペダルに踏み替えなくても、アクセルと回生パドルだけでワインディングを走れてしまうのである。
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通常のワンペダル制御は、市街地では違和感を感じ、ハイペースのスポーツ走行ではマッチしている場合がある。リリックVは、コースティングを残しながら必要な場面だけ強力な回生を使える。その結果、コーナー進入での荷重移動が非常に滑らかになり、車体姿勢も安定する。しかも機械式ブレーキをほとんど使わないので、減速フィールが自然なのだ。
このあたりのキャリブレーションを見ると、かなり走り込んで開発していることが伝わってくる。実際、Vモードに切り替えると、ステアリング、減衰力、加速レスポンス、さらには疑似サウンドまで変化する。コンペティションモードともいえるVモードは「サーキット専用」の注意書きまで入っている。
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この事実からも、キャデラックはこのクルマを単なる高級BEVではなく、Vシリーズとして本気で仕上げてきたことがわかる。Vシリーズといえば、CTS-Vなどに代表されるキャデラックのモータースポーツ系ブランドだ。近年では耐久レースでも活躍し、ル・マン24時間やWECでも存在感を高めている。つまりリリックVは、そのレーシングスピリットをBEVにもち込んだモデルというわけである。
一方で、このクルマが単なるスポーツBEVに終わっていないところも重要だ。乗り心地がじつに上質なのである。22インチタイヤを履きながら、荒れた路面での入力を角なく受け流す。大径ホイール特有の突き上げ感が極めて少ない。おそらく相当高いバネレートをもっているはずだが、その硬さを感じさせない。ストローク初期の動きがしなやかで、高級車としての快適性をきちんと維持している。
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静粛性も見事だ。パワートレイン由来のノイズはほぼ皆無。聞こえるのはロードノイズと、段差を越えたときの微かな入力音くらいである。その静寂のなかで、アクセルを踏み込むと615馬力の暴力的な加速が瞬時に立ち上がる。しかも、その加速には人工サウンドも組み合わされ、エンジン音でもモーター音でもない、新しいEV時代の加速演出がなされていた。好みはわかれるかもしれないが、少なくとも無音よりは走っている感覚を強く与えてくれる。
インテリアも印象深い。最近のEVは巨大モニターを前面に押し出し、未来感ばかりを演出する傾向が強い。しかし、リリックVは違う。大型液晶を使いながらも、表示や操作体系はガソリン車ユーザーでも違和感なく使える設計になっている。物理スイッチも残され、ドライバー中心のコクピットになっている。このあたりは、いかにもアメリカ車らしい実用思想だ。ただし、表示アイコンや文字はやや小さい。僕を含め老眼世代には少し厳しい場面もあるだろう。
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また、航続距離は約510km(米EPAでは285マイル相当)と、このサイズのバッテリー容量を考えると決して長くはない。だが、それはある意味当然でもある。このクルマは効率よりパフォーマンスを優先しているからだ。2.7トン級の車体を、615馬力と880Nmで四輪制御しながら、なお500km近い実用航続距離を確保している。むしろ驚異的といっていい。もちろん、真夏の高温下やサーキット連続周回時の充電性能低下など、実使用で検証すべき部分は残る。
しかし、少なくとも今回のワインディング試乗で見えたのはBEVだから我慢する時代は終わったという事実だ。リリックVは、環境性能をいい訳にしたクルマではない。速く、快適で、静かで、しかもスポーツドライビングまで成立させている。それを巨大なラグジュアリーSUVのパッケージで実現してしまった。
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価格は1500万円級。簡単に手が届く存在ではない。だが、もし富士スピードウェイのストレートで全開にしたらどうなるのか。筑波サーキットでどれほどのタイムを出すのか。そういう想像を自然に掻き立てるBEVは、まだそれほど多くない。
キャデラック・リリックVは、BEVの未来を環境性能ではなく、ハイパフォーマンスの方向から切り開こうとしている。それを受け入れることで、このクルマの価値が見えてくるのだ。
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