曖昧な状況でも迷わないAIが導き出す最適解
ルールベースによる自動運転の欠点は、想定外の事態への対応が苦手なこと。自動運転では周囲のクルマとのネゴシエーション(=交渉)が重要となるが、杓子定規なルールベースでは自然に譲り合うような振る舞いが難しい。
そこで自動運転の最新トレンドとして注目されているのがE2E(エンド・トゥ・エンド)と呼ばれるアプローチだ。わかりやすく表現すればAIに映像と操作を直接結びつけさせ、「最適解を自ら導き出させる」方式だ。
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具体的には、熟練ドライバーの走りをディープラーニングによって学習させることがスタート地点となる。さらに、シミュレーション内での自己学習も進めていく。そうして仮想空間において人間が経験できないほどのシチュエーションを走行して、上手な運転を身につける。
結果として、事故を起こさず、乗り心地を確保したまま、最適なルートで目的地に向かうという目的を果たせることようになるのだ。
E2Eのアドバンテージとして見逃せない点は、ルールで定められることが難しい曖昧なシチュエーションに対応できること。周囲とのネゴシエーションが求められる混雑した状況での合流もスムースにこなすことが期待できる。イレギュラーな要素が多い市街地において自動運転を実現するためにはE2Eが必須と言われ
るのは、ルールベースに対する圧倒的な応用力を評価しているからだ。
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おそらく、囲碁の世界においてAIが人間を超えたように、運転領域においても人類の最高峰レベルを自動運転が超える日はそう遠くない。そうなると自動車の設計から変化していく可能性がある。
自動車の概念を覆すAIの無限の可能性
人類の限界を超えたドライビングスキルを手に入れたAIの能力を引き出すには、人知を超えたハードウエアが必要となるだろう。人間は、ステアリングにしろ、アクセルにしろ、ひとつの入力しかできないが、AIであれば4輪ごとの駆動力や操舵を独立しつつ連携させた操作ができる。そうなるとタイヤの性能をフルに引き出すことも可能となり、たとえば人間より速いタイムでサーキットを走ることも可能になるはずだ。
また、滑らかな運転を目標設定すれば、ロールやピッチングを抑えたスムースなドライビングも実現可能だろう。ルールベースの自動運転ではギクシャクさが気になることもあるが、進化したAIによるE2E自動運転になると、乗っている人が加減速やコーナリングを感じないような、雲の上に乗っているような体験ができるかもしれない。そうなると、シートや窓などが、現在とはまったく異なるレイアウトになる可能性もある。
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いずれにしても、進化したAIに最適化したハードウエアを人間が設計できるとは思えない。つねに学習して最適化を続けるAIの求める自動運転車両を設計できるのはAIだけ……という時代がやってくるというのは、おそらく近未来の現実だ。
いかなるAIの進化も最後判断は人間の感性
すでにAIは自動車の設計に深く関わっている。空力や安全性にも影響するデザイン領域においてAIをアシスタント的に活用しているメーカーもある。新興企業のなかには、フルAIによるスタイリングの実現を目指している会社もあるという。
しかし、AIが最終決定をすることはなさそうだ。筆者が耳にしたエピソードでいえば、某タイヤメーカーではトレッドパターンをAIに生成させているが、最終的にはテストドライバーが、”ひとの感性”に合ったデザインを選んでいると言う。肉体を持たないAIは、いくら学習してもひとの感性を身につけることは難しい。最終判断を下す熟練したテスターはAI時代のクルマづくりにおいても必須と言える。それは、ブランドごとの個性にもつながる。AIによって没個性的なクルマばかりになると心配することはないだろう。
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自動車の製造・開発においてAIの守備範囲が広がったら、コストはどうなるのだろうか。AIデータセンターの課題とされている消費電力の大きさはコストアップ要因だが、エンジニアや熟練工を減らすことができれば人件費としてはコストダウンになる。どちらの要素が勝るのかは予想が難しいが、AIをフル活用することで開発期間は大きく短縮するだろうから最終的にはコストダウンにつながるはずだ。
AIの活用はトータルでは生産性向上にもプラスと考えられる。すでに生産現場で活用されているケースもある。たとえば、スズキでは作業分析AIを導入している。生産手順における無駄をAIが洗い出すことにより作業効率化や品質の安定を図ると言う。同時に、熟練工の技能を新人に伝えることもサポートするというから、教育コストを下げることも期待できる。
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AIが人間の能力を超えることを”シンギュラリティ”という。果たして自動車業界にシンギュラリティが訪れる
とき、どんな魅力的なクルマが登場しているのか? 進化し続けるAIを使いこなした自動車業界の生み出す未来が本当に楽しみだ。
※本記事は雑誌「CARトップ2026年3月号」に掲載した記事を再構成して掲載しております