ブレーキブースターで軽い踏力でも安全に止まる
この時点で現在のような形が完成したかのように思うかもしれないが、まだ進化は道半ば。まず制動力の向上が問題だった。年輩の方だと経験があるかもしれないが、サーボ(倍力)機能がないと制動力はかなり低く、強く踏めばそれなりに止まるとはいえ、危険なこともあったりする。
そもそも油圧のシステムは化学の時間に習ったパスカルの原理を利用することで倍力されているが、それでも足りないのが実際のところ。このパスカルの原理とは、簡単に言うとピストンの大きさに比例して油圧は高まるというもので、油圧ジャッキが軽々と上がるのもパスカルの原理を利用しているからだ。
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制動力不足を補うべく、1965年に登場したのがブレーキブースターで、これは現在も採用されている装置だ。仕組みは意外に簡単で、エンジンの吸い込む力を利用してペダルを踏む力をアシストするもので、制動力や安全性の向上には画期的ではあった。同時期には前後の制動力を最
適化して後輪ロックを防止するプロポーショニングバルブ
や油圧の2系統化も登場している。
ただし、まだ問題があって、初期のブースターは容量が小さくてアシスト量も小さかった。つまり、相変わらず踏んでもしっかり止まるわけではなかった。その後、ブースターの大容量化が進んで問題は解消。1990年代には強い制動時に効きを増してくれる電気的なブレーキアシストも登場することで、さらにブレーキ性能は向上した。
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画期的だったABSの登場
また、現在では当たり前となったABSが登場したのもこの時代で、いわゆるポンピングブレーキを自動で行ってくれるのは画期的だった。最初は前輪のみで、その後4輪に採用。ただし、制御も最初は荒くて、ドライバーが踏んだほうが短く止まると言われたが、その後はとにかく強く踏めば短く止まるまでに進化している。
ブレーキは安全性だけでなく、ドライブフィールの質にも大きく関係する奥が深い装備であるだけに、味付けにも苦労してきた。
4ポットなど商品性も大切なのだが、その点ではドラムブレーキというのは時代遅れな気がしてしまう。それでも現役なのはコストが安いことや制動力が得やすいこともある。制動力は、ドラムに対してシューが自然に巻き込まれるセルフサーボ機能があるため侮れないレベル。ただ、放熱や浸水時の利き、細かな制動調整、自動ブレーキなどの安全面でハンディがあるため、ドラムの採用は減ってはいる。
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ここまで見てきて、細かい進化はしつつも基本的な原理は1950年代以降変わっていないことがわかる。つまり油圧式には変化がないということだ。それには理由があって、ブレーキは命にかかわる技術ゆえに新しいチャレンジをあえて避けてきたと言える。「シンプルで完成された油圧式で問題なければそれでいい」というわけで、新しい技術、たとえばモーターでパッドを動かすというような仕組みにチャレンジして市販化しても、トラブルが発生するリスクも高まるわけで、ならば油圧のままでいいということになる。
ブレーキは「止まる」から環境にも配慮する時代へ
そして21世紀。いまでも油圧式が現役であり、基本でもある。EVの先頭を走るテスラもベースは油圧式で、その油圧を制御している。変わったのはそこに付随する電子制御。その進化は凄まじく、最新のブレーキはこれを大量に採用している。その背景には利きの向上もあるが、安全性の向上が大きな目的だ。「ただ利く」から「積極的に利かせる」時代になったというのが、この20年ほどの特徴だ。
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ブレーキは長らく止めるだけの装置だったが、現在は4輪をバラバラで制御することでトルク配分や姿勢の安定化なども可能になっている。また、減速時に駆動モーターを逆転させて発電する回生ブレーキも新たなブレーキだ。
今後はパワートレインとの一体制御がさらに進み、その重要性はますます高まっていくだろう。単に「止まる」ための装置ではなく、安全性や環境性能にも積極的に関わる──それが、これからのブレーキの姿である。
※本記事は雑誌「CARトップ2026年9月号」の記事を再構成して掲載しています