冷間時と温間時で大きく異なる空気圧の値
タイヤの空気圧値の基本はメーカーが指定している「適正空気圧」だ。これは車両の設計や想定使用条件に基づいて決められており、まずはこの数値を基準にするのがセオリーである。
自動車メーカーがタイヤの指定空気圧を決めるプロセスは、非常に綿密な試験とバランスに基づいている。それはたんに「安全に走れる最低限の圧力」ではなく、快適性をはじめ、操縦性・燃費・耐久性など、多数の性能要素を総合的に評価した上で決定されているのだ。
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ただし、それは絶対的な数値ではない。なぜなら空気は温度によって体積が変化するため、冷間時と温間時では実際の空気圧が大きく異なるからだ。クルマを走らせる前のタイヤが冷えた状態で測った空気圧が適正でも、長距離走行後には+20〜30kPa上昇していることは珍しくない。
メーカー指定空気圧は、じつは「冷間」を基準に、運転状況(街乗り、高速道路、ワインディング)や荷重(同乗者の有無や荷物の積載量)を加味して微調整する必要があるのだ。
空気圧の管理は、外気温や走行速度、車両積載量によっても見直すべきで、気温が下がると空気は収縮するため空気圧も低下する。たとえば真冬の朝、気温が5℃前後のときは、夏場に比べて10〜20kPa低くなるのが一般的だ。この空気圧の低下に気づかずに走れば、ハンドリングのダルさや転がり抵抗の増加を感じるだろう。
また、クルマに多くの荷物や人を積載する場合は、リヤタイヤの空気圧をやや高めに設定する必要がある。これはタイヤのたわみが大きくなるためで、指定空気圧表にも”フルロード時”の数値が別途記載されている場合がある。
空気圧を利用すればハンドリング変更も自在
サーキット走行などの高負荷条件下は、タイヤは発熱によって空気圧が急激に上昇する。ここで大切なのは、「走行後の空気圧を見て、冷間でどこまで下げておくか」というセッティング技術だ。
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たとえば、冷間で180kPaに設定したタイヤが、連続走行で260kPaまで上昇した場合。その時点で最適な空気圧に調整し、走行後にタイヤを冷やして再度計測することで、「冷間では160kPaまで下げておこう」といった調整が行われる。
正確を期すなら、タイヤはフロントとリヤ、左と右で負荷が異なるため、厳密に言えば4輪個別に適切な設定が求められる。
空気圧を利用すればハンドリングの味付けも可能だ。たとえば、オーバーステア傾向が強ければ、リヤの空気圧を若干下げることでリヤタイヤのグリップ力を増やし、挙動をマイルドにできる。逆にアンダーステアが強い場合はフロントの空気圧を下げてみる。
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もちろんこれは応急的な調整で、足まわりの調整が基本だが、簡単に試せる点で有効な手段と言える。なにより、空気圧調整は「お金をかけずにできるチューニング」だ。適切に行えばクルマの性格を自分好みに変えることができるのだから試さない手はない。
最新の超偏平タイヤ、そして高性能車の進化に伴い、タイヤ空気圧とどう向き合うか? は、もはや日常的なチューニング作業の一環と意識すべきだ。
以前に取材した某国産メーカーのシャシー開発担当者はこう語っている。
「指定空気圧は、たんに適正値というより”味つけの最終調整”に近い。足まわりの設計をすべて終えたあとで、あえて空気圧を上下させて試験を行い、車両のキャラクターにマッチする感覚を探すのです」
つまり空気圧は生産過程の最終段階で、クルマの性格を整える”仕上げの調味料”としても重要なのだ、と。
講師 中谷明彦
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全日本F3000/ツーリングカー選手権などでの優勝、ル・マン24時間ほかの海外レースで活躍するなど経験・実績豊富なレーサーであり、理論派モータージャーナリスト。また、現インディドライバー・佐藤琢磨をはじめとするレーシングドライバーを多数輩出したドライビングアカデミー「中谷塾」を主宰する。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
※本記事は雑誌「CARトップ2025年7月号」の記事を再構成して掲載しています