日本の文化「カワイイ」でクルマもかわいくなる 同じく、2000年代の多様化で忘れてはいけないのは「カワイイ」の存在でしょう。もちろん、人間の顔に例えられることが多いクルマでは、たとえばフィアット500やミニといった「カワイイ」クルマが以前からありましたが、ここで言う「カワイイ」はもっと日本的な感覚です。
代表的なところでは「私にぴったり! 賢いハッピーパートナー」を商品コンセプトとして2009年に発売された、ダイハツのミラココアがあります。コンセプトだけを見ればもはやぬいぐるみの企画としか思えないし、そもそもターゲットを若い女性にするなど日本以外ではあり得ません。
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一方、ミラココアが仮想敵と考えたスズキのラパンは、同時期の2代目までこそジェンダーフリーな佇まいを見せていましたが、15年発売の現行型ではライバル同様、完全に女性向けに舵を切って「カワイイ」を強化しました。
社内の女性を集めて開発チームを作ったとされますが、面白いのは、ダイハツもミラココアの後継であるミラトコットで同様の女性チームを作ったこと。女性が本当に求めているモノは女性にしかわからないという話ですが、こんな体制を作るのもじつに日本的。
そうそう、この「カワイイ」に対して「コワい」を追求したのが、2007年登場の光岡オロチです。何せデザインは神話に登場するヤマタノオロチにヒントを得たと言いますから、これほど日本的なクルマもないかもしれませんね。
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日本の伝統を再構築する各メーカーの取り組み さて、1980年代から2000年代まで日本的なアプローチをとった国産車を振り返ってきましたが、もちろん現在もその流れは続いています。ただ、これまでがクルマ単体での企画だったのに対し、現在はメーカー全体での取り組みであることが特徴です。
たとえば、日産。冒頭に例としたエルグランドの「格子」表現は、いま同社が取り組む「タイムレスジャパニーズフューチャリズム」の一環です。これは「粋」「移ろい」「間」など、日本らしい伝統的なテイストを新鮮な視点でとらえ、新しい時代やグローバルに通用するデザインに昇華するという独自のデザインフィロソフィ。
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BEVのアリア以降、ノートやサクラなどで展開されていますが、日本のメーカーとしていち早くグローバル化に乗り出した日産としては、その根本思想として自国の伝統を打ち出す必要があったのかもしれません。
和の本質を追求するマツダのデザイン その日産に近い背景を持つのがマツダです。2000年代初頭、フォード傘下となったマツダは、ヘンリー・ウォレス社長の指揮のもと、2003年に「KUSABI」、2006年に「NAGARE」など和名を持ったコンセプトカーを矢継ぎ早に発表します。
マツダのデザインコンセプトカー「KUSABI」のフロントスタイリング 画像はこちら
当時経営危機にあったマツダが、日本メーカーとして何をするべきなのかをカタチにする必要があったのでしょう。一連のコンセプトカーはいささかグラフィック表現に過ぎたモノでしたが、しかし、これが現在の魂動デザインにつながったのは間違いないところです。
魂動自体は「生物が見せる一瞬の動きの強さや美しさ」を標榜し、ことさら日本らしさを謳った思想ではありませんが、フェーズ2とされる「引き算の美学」は、伝統工芸や日本建築が持ついい意味での質素さをイメージさせました。さらに、昨年のジャパンモビリティショーで発表されたビジョンクロスクーペなどは、よりシンプルになった面質にやはり「和」を感じるところです。
輸入車でも見られる日本文化へのアプローチ 一方、トヨタは「日本独自の繊細な美意識やおもてなしの心」を具現化したセンチュリーを独立したブランドとする一方、レクサスでは日本の美意識に由来したデザイン思想「Time in Design」を展開。月明かりが映し出す陰影を表現したボディカラー「銀影ラスター」や、西陣織とプラチナ箔を組み合わせたインテリアなどをLSで結実させています。
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なお、こうした日本の伝統文化に着目する表現は海外へも波及し、シトロエンは独自の「C-Zen Lounge」コンセプトで視界のいいミニマムなインテリアを展開していますが、このZenは「禅」を意図すると言われています。
また、2025年にBMWが日本専用に限定販売した「X7 BLACK−α」は、インパネに漆加飾を使うなど、日本の伝統工芸にインスパイアされた仕様でした。
BMW X7 BLACK−αのセンターコンソール 画像はこちら
このように拡大する日本的アプローチですが、今後どういった展開を見せるのかは少々気になります。もちろん、日本発のクルマが自国を意識するのは当たり前のことですし、それがグローバルで評価されるのは誇りとも言えます。
ただ、あまりに近視眼的な「日本らしさ」に執着するのはキケンとも言えます。クルマはプロダクトとして極めて多くの要素を持つ特殊な存在であり、カーデザインには無限の可能性があります。そのなかで日本的な要素をどうとらえるのか、より俯瞰した姿勢がデザイナーには求められるのかもしれません。
※本記事は雑誌「CARトップ2026年10月号」の記事を再構成して掲載しています