この記事をまとめると
■サスアームなどに使用されるゴム製ブッシュは振動や衝撃を和らげる役割を果たす
■小さい部品だが操縦安定性と快適性を両立する設計が随所に施される
■マルチリンク式では意図的な変形で性能向上を図るケースも
知られていないだけでどんなクルマにもついている大事な部品
サスペンションで話題になるのは、ダブルウイッシュボーンとかマルチリンクといった形式のことが多いのではないだろうか。あるいは、バネやダンパーなどレートの高低や、ダンパーの減衰力特性などが語られる。
一方、語られる機会が必ずしも多くない部品に「ブッシュ」がある。これは、サスペンションアームの取り付け点に使われるゴム部品だ。
サスペンションの動きは厳密で正しくあることによって、設計の狙いどおりの優れた操縦安定性がもたらされる。そこで、競技車両ではゴム製のブッシュではなく、弾性のない金属製のピロボールブッシュなどが使われることもある。
ピロボールブッシュのイメージ画像はこちら
市販車においては、基本的にゴム製のブッシュが使用される。ではなぜ、弾性をもつゴム製のブッシュが必要なのか?
一般道を走るクルマは、路面の影響を受けて振動したり、その振動を原因とした騒音を生じたりする。それは乗り心地にかかわる。そうした振動や騒音を低減する役目をブッシュは担っている。路面の影響でサスペンションが動かされて振動となると、体に伝わる。それを抑えるのがサスペンションであったり、ブッシュであったりするのだ。
また、衝撃的な突き上げの影響も考えられ、路面のつなぎ目などの小さな段差がサスペンションを通じて車体に伝わる。ブッシュにはそうした衝撃を和らげる役目もある。
サスペンションアームから取り外されたブッシュ画像はこちら
とはいえ、冒頭で述べたようにサスペンションには正確な動きが求められる。ゴム製のブッシュがもつ弾性と、サスペンションの正確な動きはいかにして両立されているのだろうか?
ひとつには、力の入る方向によってブッシュの使い方を制限することだ。たとえば、横からの力はブッシュの影響を受けないか極力小さく抑えることで、操縦安定性を確保する。それに対して前からの入力、たとえば段差の乗り越えに対しては、ゴムの弾性を活かして受け止める。
それらの機能を両立させるため、ブッシュに使われるゴムの弾性を調節したり、ゴムに力がかかる向きによって、弾力を必要としない側には変形しにくいような仕切りを設けたりといった工夫が施される。
仕切りや切れ込みが入ったブッシュ画像はこちら
マルチリンク式のサスペンションでは、弾性のないピロボールを用いれば上下動しなくなるようなアーム配置をあえてしておきながら、ゴムブッシュによってアームの動きに変化をもたらし、走行状況に応じたアライメント変化を意図的に起こさせる考え方や使い方もある。
1個の値段は安いブッシュだが、サスペンション設計者の期待や、多様な機能を実現する技術が詰め込まれているのである。