この記事をまとめると
■タイの新車市場は洪水と関税により深刻なダメージを受けている
■2025年11月に開催された「モーターエキスポ2025」では値引きと低金利政策が目立った
■中国ブランドの低金利作戦に日系メーカーも巻き込まれている
日本よりも深刻な状況のタイの新車販売事情
自販連(日本自動車販売協会連合会)統計によると、2025年1月から11月までにおける、登録乗用車の累計販売台数は235万1895台(前年対比100.6%)、全軽自協(全国軽自動車協会連合会)統計による2025年1月から11月までの軽四輪乗用車の累計販売台数は12万6416台(前年対比109.1%)となった。状況からすると、日本の2025歴年における年間新車販売台数は前年並みで落ち着きそうである。
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諸物価高騰などで製造原価が上昇を続けるなか、車両価格の実質値上げ(単純な値上げはほぼないので)を行うものの、コスト上昇を十分吸収できないレベルとなり、値引き原資となるディーラー利益を圧迫している。これでは値引き販売を派手に行うこともできないので、前年並みはある意味既定路線ともいえよう。
しかし、日本のそんな様子を可愛いレベルとも表現できてしまうのが、東南アジアのタイにおける新車販売状況である。販売統計を見る限り、2025年1月から10月までの累計新車販売台数が49万5001台(前年同期比プラス3.9%)となっており、日本とそれほど変わらないようにも見える。しかし、2024年は9月にタイ北部で大規模な洪水被害が発生し、それ以降は新車販売台数が急落している。人気の高いピックアップトラックでは2024暦年締め年間新車販売台数が2023年比で40%以上販売台数が落ち込む車種が続出しており、結論としては「比較した2024年よりはマシになった」ともいえてしまうのである。
日本でもトランプ関税で大騒ぎとなっているが、タイでも状況は同じ。中国はタイを迂回経由地として貿易を行っているとし、アメリカ政府の対応は日本よりも厳しいともいわれており、その影響はタイ経済を直撃している。そもそもバーツ(タイの通貨)高の影響で輸出が伸び悩んでいたなか、トランプ関税が経済を直撃している。さらに、2025年11月には南部で2024年の北部を超える300年ぶりとされる、大規模洪水被害が発生しており、今後の新車販売への悪影響は避けられないともいわれている。
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日本よりも周辺環境の悪いなか、首都バンコク近郊では新車の会場での販売をメインとして「モーターエキスポ2025(第42回タイランド国際モーターエキスポ/通称バンコクモーターエキスポ)」が、2025年11月下旬から12月上旬にかけて開催された。
「新車の販売促進メインのトレードショー」とモーターエキスポを紹介したが、会期中にはまさにその場でサインしたくなるほど魅力的な特典が用意されている。正式開幕に先立ったメディア向け先行公開日(プレスデー)に行われた、各出展ブランドのプレスカンファレンスでは、車両本体価格から大きく値引きを行った“会場特価”を大々的に発表するブランドも相次いだ。タイでの大幅値引きはいま始まったばかりではなく、ここ数年の風物詩ともいえる。
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まさに破壊的な値引きよりも今回会場で目立ったのは、金利0%キャンペーンであった。タイにおける新車購入ではローンを利用するのが半ば当たり前となっている。日本でも最近は商談での主流になりつつあるが、単純に値引き交渉するのではなく、「月々の支払いをどこまで抑えるか」が商談のポイントとなっており、様子を見ているとタイでもそれは変わらないようだ。頭金をいくら入れるかなどの決まりがあり、さらに審査結果では0%を受けられないこともあるが、金利0%を客寄せパンダ代わりに使っているので、それでも好条件が期待できるのである。
タイ政府は2025年11月18日に、市民の借金の一部を免除する徳政令(5800億円規模)を閣議決定している。タイの新車販売不振の背景には信販会社の厳しい審査があるのだが、それにはタイの人たち個々の抱える債務が見過ごせないレベルに達していたこともあるとされていた。消費拡大により経済活性化が政府の徳政令発令の狙いとされているようだが、そのようなタイの社会では、金利0%は新車の販売促進でも有効なカンフル剤なのである。