この記事をまとめると
■工業製品の開発現場では「リバースエンジニアリング」という単語がよく使われる
■ライバルメーカーの製品を分解して仕組みや構造を研究するのが目的だ
■クルマの完成度は感応評価の領域が大きいので分解してもわからない部分もある
パクリじゃないの? 「リバースエンジニアリング」とは?
自動車の開発記事などを読んでいて、「リバースエンジニアリング」という言葉を目にしたことはないだろうか。日本語にすると「逆行設計」であり、ライバル企業の完成した製品やサービスを解析・分析することで、構造や設計を明らかにする手法のことだ。
ライバルの製品をバラして中身を調べる……と聞くと、設計をパクったコピー商品を作るための手法のように思えるかもしれないが、そうではない。たしかに、分析結果により知的財産(著作権や特許権)を侵害してしまうのは企業活動としては論外だが、技術の学習といった目的であれば正当な研究活動として位置づけられている。
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では、具体的に自動車業界でのリバースエンジニアリングでは、どのような手法を用いて他社製品の分析を行っているのだろうか。仮に、ライバルモデルを1台だけ入手してリバースエンジニアリングを行うと仮定して、その流れを整理してみよう。
まずは徹底した計測だ。寸法はもちろん、台上試験によって振動や騒音、加速性能、さらに空力特性などのデータを取得する。つづいて、テストコースや公道において実走行による乗り心地やハンドリングといった感性領域のチェックになる。合わせて、制御データの取得なども実施される。
大まかにいうと、ここまでがベンチマークテストと呼ばれる。
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完成車状態でやるべきデータ採取を終えて初めて、次のステップである「分解」へ進む。いきなりバラバラにしてしまうと、走行データが取れなくなってしまうからだ。
まずは、ボディと部品をバラしはじめる。ボルト&ナットのレベルからひとつひとつの部品の重量を計測、モノコックボディを3Dスキャンして骨格の設計思想を解析する。この段階で、衝突したときの応力伝達など安全設計の分析がなされることもある。
つづいて、モノコックボディやサブフレームを物理的に切断するなどして、金属の厚みや使われている合金の種類などを調査する。同時に溶接箇所や接着剤の塗布量など製造手法についても解析される。
こうして、1台のクルマはバラバラになり、そのすべてが分析される。
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また、バラバラにした部品については、サプライヤーの確認や推定も実施する。こうして、使われている素材や部品、そして製造方法からコストを逆算していくこともリバースエンジニアリングを行う重要な目的となっている。
ただし、いまやリバースエンジニアリングを自動車メーカーが独自に行う時代ではなくなってきている。解析を行う専門会社が世界中にあり、そうした企業が発行している「ティアダウンリポート」や「ベンチマークデータ」を購入する時代になっている。
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さらにいえば、こうしたリポートを発行する企業は、それぞれに製造原価や車体構造、電子基板や制御プログラムなどに得意分野があり、そうしたリポートを組み合わせることで自動車メーカーはライバルモデルを分析している。
それでも自動車メーカーがリバースエンジニアリングを完全に外注することはないだろう。少なくとも、実走行による乗り心地やハンドリングといった感性領域のチェックは開発目標やベンチマークを設定する上で外せないからだ。
ただし、自社の基準で感性領域をチェックすると、自社製品が有利になりがちな傾向があり、そのバランスを取るのは難しい面がある。
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たとえば、メーカーの開発エンジニア氏から「他社のあのモデル、うちの基準では大したことないんですけどねぇ」といった本音を聞くことがある。たしかに、その会社の基準では高得点ではないかもしれない。しかし、そのモデルが実際に市場で評価されているのであれば、そのメーカーの基準が厳しすぎるか、そもそも市場に要求されていない項目で評価しているかもしれない。
逆にいえば、計測データや物理的なスペックを完璧に調べて、数値化したとしても、感性領域がクルマの商品価値である限り、自動車メーカーごとに個性的な製品が生み出されることになる。
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孫子の兵法に「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」とあるが、リバースエンジニアリングとは、単に「真似をする」ためではない。ライバルの設計思想を分析することで、自社の強みと弱みを正確に把握し、勝てる領域や差別化ポイントを明確にするプロセスといえるのだ。