法人よりも個人タクシーがウハウハだったのは過去の話!? 意外と知らない個タク事情

新規はハードルが高く事業免許の譲渡で開業するケースが多い

 日本のタクシーは“法人タクシー”と“個人タクシー”に分類することができる。

 “法人タクシー”とは、タクシー事業を展開する会社に原則“正社員(パート契約もあり)”として所属し、事業者所有のタクシー車両にて営業運行するもの。個人タクシー

 一方の”個人タクシー”はその名のとおり、1台1台、そして各ドライバーが独立した事業主となって営業運行を行うものとなる。その大きな違いは営収(営業収入)となる。法人タクシーの場合は、営業収入をドライバーとタクシー会社が一般的に折半(事業者によって取り分の割合の違いあり)することになるが、個人タクシーは100%ドライバーのものとなる。

 個人タクシーとなるには、“新規許可”と“譲渡譲受認可”の2通りの方法があるが、東京23区と武蔵野・三鷹地域など、“特定地域(タクシー特定地域特措法特定地域)”に指定されているところでは新規許可はほぼ不可能な状況となっているのが現状。個人タクシー事業者から、すでに持っている事業免許を譲り受けることのみとなっているのが実態となっている。なお事業を相続するという方法もある。

 その個人タクシーのドライバーになる資格は当然ながら厳しいものがある。その資格要件は年齢などにより細かい運転経歴についての要件があるが、原則としては

1)申請日現在年齢が65歳未満
2)普通第二種運転免許を所持しており、かつタクシーなどの運転経歴は10年以上
3)年齢によってその期間は規定が異なるが、申請日以前一定期間道路交通法による違反及び事故がないこと
4)申請日までに一定の資金を、認可を受ける公示日まで確保していることなどがある。

 そしてこのような基本要件のほかに各運輸局が行う法令試験と地理試験に合格する必要がある。ただし地理試験に関しては一定条件をクリアしていれば免除となる。

 法人タクシードライバーで経験を積むだけでなく、事故や違反もないひとが厳しい資格要件や試験をクリアして晴れて個人タクシーとして独立開業するので、その一般的なイメージや信頼性も高く、使用している車両も豪華なものが目立つので好んで乗るひとも多いようだ。

 ただ以前よりは資格要件の“敷居が低く”なったのも事実であり、個人タクシーの全部が全部模範的なタクシードライバーかといえば、疑問を持たざるをえないという声も聞かれる。

 かつては、タクシー営業のなかでも深夜割増になるなど、“割の良い”夜間だけ営業運行する個人タクシーも多かった(それだけ深夜のタクシー利用客も多かったということ)。

 筆者はかなり過去になるが、バブル経済はすでに崩壊したが、まだその余波が残っていたようなころに仕事で終電を逃し、東京隣接県の都心から40kmほど離れたところまで個人タクシーを利用した。そして支払いのときに現金で支払おうとしたら、「なんだ現金かよ」と吐き捨てるように言われた(当時は白紙のタクシーチケットにドライバーが勝手に料金を書きこむことも多かった)ので、それ以降20数年経ったいまでも個人タクシーは原則的に利用しないようにしている(ほかにも理由はいくつかある)。

 何が言いたいかといえば、個人タクシーの資格要件は、プロドライバーとしての運転経歴に関しては厳しくチェックされるが、接客サービスの優劣についてはとくにチェックはしていないのである。

 あるタクシー事業者では、常に会社に対して批判的な態度をとるドライバーに対して、それは別としてもけっして優良とはいえないが、個人タクシーとして独立することを勧めて追い出したなどという話も聞いたことがある。

 もちろん個人タクシードライバーのほとんどは、運転技術だけでなく接客などについても優れているのだが(それでなければ個人で独立営業などは続けられない)、全部が全部そうだと思っていると、“しっぺ返し”を受けることもある。

 また、あえて優良顧客を多く持っている大手タクシー会社に残り、優良ドライバーで在籍を続けたほうが、“客筋がよい”ので収入も安定するとして、あえて個人タクシーとして独立はしないドライバーも目立っているということになる。

 正社員ドライバーならば、年金や健康保険はつくし、退職金制度などほかの福利制度も充実しているのも魅力のようだ。また、事故や乗客とのトラブルになった場合でも、所属タクシー事業者の全面バックアップがあるのもリスクが少ないと判断されているようである。仮に“反社会的組織”もしくはそれに近いひとたちとトラブルになっても、法人タクシーのドライバーならば、タクシー事業者の運行管理者がトラブル対処にあたるが、個人タクシーならば原則自分でトラブル処理にあたらなければならなくなる。

 世の中が“羽振りがよかった”時代には、そのようなリスクを覚悟しても得られる収入は法人タクシードライバーに比べ圧倒的に多かったが、景気が良いと言われてもタクシー利用客の伸び悩みどころか減少傾向の続くいまではかなり微妙な状況となってきている。当然ながら、燃料費や自動車保険(タクシーの保険料はかなり高い)などの車両維持費も個人タクシーは自己負担となる。

 タクシー事業者としても、事故や違反だけでなく接客トラブルもない優秀なドライバーは手元に置いて置きたいのは当たり前の話。優良顧客の優先配車などの待遇が厚いケースも多いようだ(新規許可が原則受けられない地域では、独立は結構面倒であるし)。

 大手タクシー事業者は中小や零細事業者をグループ傘下におき、グループ全社でのタクシー車両を多く保有している(無線グループとして準大手を中心にグループ化しているケースもある)。それらグループ化により、台数の多さによる利便性だけでなく、サービスクオリティが高いレベルで均一化されているということで大手企業などの大口利用客も多いのである(優良顧客には優秀なドライバーを担当させるなどもしているようだ)。

 また個人タクシー事業者として独立するときには、車両購入だけでも数百万円かかるし、組合加入をすればさらに加盟費もかかるなど、初期投資費用も結構必要となるので、かなりの借金を背負って開業するケースも多いと聞く。

 かつては夕方以降に多く見かけた個人タクシーが朝から都内などでも、街なかを“流し営業”している光景をよく目にするようになったのが、かつての“イケイケムード”ではないことを感じさせてくれる。

 ただし、個人タクシーのなかでも、しっかりと稼ぎ続けるドライバーがいるのも確かであり、タクシー利用客の減少傾向に歯止めがきかないなかで、いかに“お得意様”を囲い込むか、ドライバー個々の営業力がより問われる厳しい状況がタクシー業界全体で続いており、ベテランドライバーしかなれない個人タクシーではそれがより顕在化しているのかもしれない。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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