改良で販売台数トップに返り咲くもトヨタ・アクアの抱える苦しい現実

「ハイブリッド」というおまじないは利かない時代に

 4月3日にトヨタ・アクアが一部改良を行った。今回の大きな改良点としては、衝突回避支援パッケージ“トヨタセーフティセンス”について、昼間の歩行者も検知対象に加えた、“プリクラッシュセーフティ(レーザーレーダー+単眼カメラ)”が採用されたことだ。

 自販連(日本自動車販売協会連合会)の統計によると、アクアの2017事業年度(2017年4月〜2018年3月)の総販売台数は12万8899台(月販平均約1万741台)となっている。2016事業年度(2016年4月〜2017年3月)は15万5566台、2015事業年度(2015年4月〜2016年3月)が19万2399台、2014事業年度(2014年4月から2015年3月)は22万8375台となっている。

 アクアは2011年末に正式発売されているので、登場以来7年が経過しようとしているが、フルモデルチェンジは1度も行われておらず鮮度が落ちているなか、日産ノートeパワーなどの手ごわいライバルも登場しており、ここのところは一時期に比べれば販売苦戦気味というものは否めない状況となっている。

 デビュー直後はプリウスよりコンパクトサイズかつハイブリッド専売車ということで、兄貴格のプリウスと並んで一躍人気車となったアクアだが、販売現場では「売りにくい」という声も根強く聞かれていた。

 まずは搭載ユニットである。トヨタが世界に誇るTHSユニットとはいえ、”先々代プリウスのユニット”というイメージも強く、セールスアプローチの時には、「最先端ユニットですよ」とはなかなかお客に説明できないというのだ。「現行プリウスではリチウムイオン電池搭載車も設定されているので、『プリウスとどこが違うのか?』と聞かれた時はかなり困る」という声も販売現場からは聞かれた。

 決定的なのは2016年秋に“ノートeパワー”が登場したことだろう。シリーズ方式ハイブリッドシステムを採用するeパワーは、電気自動車のリーフの技術を流用し、1.2リッターエンジンは発電目的に搭載されている。

 “ワンペダルオペレーション”というものまで採用され、ひたすら燃費性能を追い求めたトヨタのハイブリッドユニットに対し、メカニズムだけでなく、“操る楽しさ”まで付加されたものであり、たちまち大ヒットした。目新しさの目立つeパワーに比べれば、アクアのハイブリッドユニットは運転する面白みに欠けるもので、古臭さも目立ってしまった。

 ただ、自販連統計のノートの販売台数には通常のガソリンエンジン搭載車もカウントされているので、2017事業年度締めではアクアより販売台数では上まわるが、これがすべてeパワーというわけでもないので、あくまでeパワーにお客が流れているということだけがいえる。

 アクアはハイブリッド云々を抜きにしても、後席やラゲッジスペースが狭く、単純にコンパクトカーとして見ても、積極的にすすめにくいモデルという話もよく聞く。

 アクアの脅威は何もライバルメーカー車だけではなく、身内にも出現したのである。それがルーミー/タンクである。ダイハツからのOEMとなるルーミー/タンクは、背の高いMPV(多目的車)スタイルのコンパクトカー。基本ダイハツ車にもなるので、ハイブリッドユニットの設定はなく、1リッターNAとターボエンジンが設定されている。

 ルーミー/タンクは2016年11月から正式発売されている。年間販売ベースでフルカウントとなる、2017暦年の販売台数はルーミーが7万8675台、タンクは7万854台となっている。アクアの同時期の販売台数は13万1615台なので、「アクアの脅威には見えない」という見方もできるが、ルーミー/タンクは見た目が少々異なるだけのほぼ双子車。

 アクアはトヨタ系ディーラー4チャンネル(トヨタ、トヨペット。カローラ、ネッツ)すべてで取り扱っている一方、ルーミーはトヨタ&カローラ店、タンクはトヨペット&ネッツ店扱いとなっている。双子車として考えると両車で見れば、トヨタ系4チャンネルで扱われていることになる。そこでルーミーとタンクの販売台数を合算すると14万9529台となるので、ルーミー&タンクシリーズでカウントすると販売台数ではアクアを抜いているのである。

 アクアSにLEDヘッドライト、トヨタセーフティセンス、スマートエントリーパッケージ、フロアマット、サイドバイザー、カーナビなどの装備をつけて試算すると、支払総額は245万5117円となった。

 一方アクアの試算とほぼ同条件でルーミーG“S”を試算すると、支払総額は210万4917円となった。さらに4月に改良が行われるまでは、ルーミー/タンクにはダイハツのセーフティパッケージとなるスマートアシストⅡを採用していたので、アクアの当時のトヨタセーフティセンスのスペックより勝っていたのである。アクアのJC08モード燃費は34.4㎞/Lなのに対し、ルーミーは24.6㎞/L。支払総額はアクアのほうが今回の試算で比較すると、約35万円高いことになる。

 アクアは35万円高いものの燃費性能ではカタログ数値上は抜群に良い。しかし一方で、改良前のアクアに比べるとルーミーのほうが安全装備面では充実していた。そして背が高くて多用途性に優れるルーミー/タンクが選ばれることが多くなったのである。これは“『ハイブリッド』という『おまじない』が新車販売において絶対的効力を持たなくなってきた”ということになってきているのを物語っているといってもいいだろう。

 改良で安全運転支援デバイスがさらに充実したようだが、ライバルやルーミー/タンクを凌ぐような目を見張るようなものではないので、販売状況を飛躍的に好転させるツールとなることは難しいだろう。

 一部改良後初の1カ月フルカウントとなった、2018年5月のアクアの販売台数は1万325台で、登録車販売ナンバー1となった。取りあえずは好調なスタートを切ったともいえるが、最近のアクアの販売状況をみると、自社登録やレンタカー、カーシェアリングなどのフリート販売が目立っていのも確か。

 魅力的なライバル車が多いだけでなく、身内にも販売を脅かすモデルを抱えている。改良により安全運転支援デバイスの充実が図られたものの、「モデルチェンジはいつなのか?」という声が頻繁にあがるほどすでにモデルの鮮度は落ちている。アクア浮上のカギは次期型にかかっているといってもいいだろう。

 短期間でトヨタの看板車種となったアクアだが、その人気を支えていた“ハイブリッド(というかTHS!?)というおまじない”の効力が薄れつつあるいま、今後の動向から目が離せそうにないようだ。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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