やりすぎた4代目プリウスの代わりを担うカローラ・スポーツに大ヒットの予感

プリウスはもちろんC-HRからの乗り替えも

 今年春のニューヨークショーでワールドデビューして以来、日本国内でもそのデビューを待ち望むような報道が相次いだカローラ・スポーツ(北米名:カローラ・ハッチバック)がついに6月26日に日本市場において正式デビューした。

 カローラ・スポーツがデビューするまでの報道では、「カローラユーザーの若返りをねらう」などの内容が目立っていたが、CMキャラクターに若手人気俳優を起用しているものの、トヨタの発信したニュースリリースにはターゲットユーザーに関する記載はなかった。

 トヨタのウエブサイトにある見積りシミュレーションで、ハイブリッドG “Z”にカーナビやフロアマット、サイドバイザーなど最低限のオプションを装着させて試算したところ、支払総額は約317万円となった。ある統計調査による24歳(男女)の平均年収である320万円とほぼ同じになっている。

 いまどきの若者ならば、都市部を中心に運転免許を取得していることすら珍しくなっていることを考えれば、自分のクルマを持つことが優先事項になりにくいのは明らか。そのようななかで平均年収に近い新車を、ローンを組んでまで購入して所有しようという消費行動はなかなか期待できない。ここらあたりも考えると、安易に「若者がメインターゲットのクルマです」とはいえないのも、これまた実状といえるだろう。

 そこで販売現場に行ってみると、興味深い話を聞くことができた。「320万円ぐらいする新車を若いお客様に購入していただくのは現状ではかなり厳しいです。私どもは『3代目プリウスのユーザーへの代替え促進』を積極的に進めるように指示を受けています」とセールスマンは話してくれた。

 3代目プリウスは2009年5月に正式発売されたハイブリッドカーだ。“エコカー補助金”や“エコカー減税”や、当時はまだハイブリッド車自体のラインアップが少なかったり、ホンダ・インサイトとの販売競争などもあり価格引き下げなども行われるなど、さまざまなものが後押にもなり爆発的にヒットした。調べてみると累計販売台数は160万台を超えているようだ。

 3代目プリウスのメインユーザーはカローラ・アクシオほど年齢は高くなっていないが、若者ではなく、中高年もしくはそれ以上が目立っている。そして、いまこの膨大な3代目プリウスが代替え期に差し掛かっているのだが、アクの強いデザインなどもあり4代目プリウスへの代替えがスムーズに進んでいないのである。

 トヨタ車ユーザーはセールスマンとの長い付き合いのあるひとも多く、クルマというよりはセールスマンの人柄を信頼し、セールスマンの勧めてくるクルマへの代替えは余程のことがない限り拒否反応は示さないのだが、4代目プリウスへの代替えでは拒否反応を示すお客も多いとのことである。「3代目に乗ってみたら運転するのがあまり面白くなかった」とか、「4代目になってもダイナミックな技術革新が見られない」など、デザイン以外にもざまざまな理由が、4代目への代替えをスムースなものにしていないようだ。

 そうこうしているうちに3代目プリウスユーザーの、輸入車や、ライバルメーカー車への代替えによる流出も顕在化してきた。もともとプリウスに限らずハイブリッド車は同クラス車より価格設定が高くなるのが一般的。つまり3代目プリウスを購入したユーザーの多くは所得に余裕があるので、購入予算にそれほどこだわらないので、とくにクルマ本来の性能では、より高い満足感を得られる輸入車へ流れるケースも多くなりやすいのである。

 C-HRを発売したときも販売現場では3代目プリウスユーザーへの積極的アプローチを行ったと聞いている。ハイブリッドに関しては大きな技術革新はないものの、クーペSUVというユニークなスタイルもあり、3代目プリウスからの代替えも積極的に行うことができ、それがC-HR大ヒットの一因になったといっても過言ではないだろう。

 そして今度はカローラ・スポーツでも3代目プリウスユーザーへの代替え促進を積極化しているようなのである。

 3代目プリウスユーザーはカローラユーザーに比べればまだ若い。CMキャラクターに人気若手俳優を使うのも、「若者向けですけどお似合いですよ」などと、実際に売り込みたいユーザーへのセールスツールとしてはかなり有効といえるだろう。しかもカローラユーザーの若返り(20代の積極的な囲い込みは難しいかもしれないが)も文字通り行うことができる。

 しかしここでさらに興味深い話も聞くことができた。「じつはC-HRからの代替えも目立っているようです」というのである。

 C-HRは昨年デビューしたばかりの新型車。にもかかわらず代替えが目立っているというのである。C-HRは後席が狭く、囲まれ感が強いことに不満が多いとも聞いている。

 カローラ・スポーツがC-HRより飛躍的に後席が広いとまではいえないが、「プリウスからの代替えをC-HRにしたのは少々飛躍しすぎた」というひとが、「これだよ!」とカローラ・スポーツへ短期間で代替えを決意しているのかもしれない。

 事情通氏は「2台(カローラ・スポーツとC-HR)のパワートレインは同じで、スタイルが違うだけという売り方をするセールスマンもいるようです」とのこと。セールストークとしては実にわかりやすいし、購入希望客にある意味二者択一を迫るというやり方は、他メーカーへ流れるのを防ぐのにも有効である。

 3代目プリウスやC-HRはトヨタ全店で扱われている。話を聞いているとカローラ・スポーツをカローラ店専売にしているのはなんだかもったいないような気がしてきた。バッジを張り替えるだけでもいいので、兄弟車として“オーリス”を設定して全店で実質的にカローラ・スポーツをラインアップすれば、カローラ・スポーツのように、3代目プリウスからやC-HRからの代替えを促進することもできるのではなかろうか?

 ある意味、いままでのトヨタ車とはキャラクターの異なるカローラ・スポーツは、他銘柄(この場合はトヨタ以外のメーカー車)ユーザーの取り込みとしても有望だ。

 また、いまどきは新車販売におけるライバルとしては、カーシェアリングなど、“クルマを所有しない選択”というものの存在感が目立っている。そのため、ここのところ日本の新車販売市場は縮小傾向にあるが、それが今後はさらに顕在化しようとしている。そのなかでは、自銘柄(自分のメーカーのクルマ)ユーザーをいかに他銘柄車へ乗り換えさせずに、自銘柄車を乗り継いでもらい、囲い込むかがより重要となってくる。カローラ・スポーツやC-HRはそのような、自銘柄車ユーザーの囲い込み役も強く担っているように見える。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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