システムはありきたりでもフォレスターの悪路走破性がライバルに優るワケ

ドライブシャフトの強度のポイントがある

 スバルから新型フォレスターが登場した。5代目にして「e-BOXER」と呼ばれるハイブリッドが設定されたのに対して、ついにターボエンジンのラインアップが消えたことは古くからのファンにとってはネガに思えるだろう。スバル・フォレスター一部のスポーツターボエンジンを除くと、高回転まで使えないダウンサイジングターボにならざるを得ない環境にあって、ターボからモーターアシストへとシフトしていくのは、気持ちよく走るための提案として理解すべき時代といえるのかもしれない。その意味で、2.5リッターの直噴タイプへとグレードアップしたNAエンジンは燃費性能と気持ちよさについて好バランスという印象もある。

 さて、フォレスターはモノコックボディのクロスオーバーSUVだが、その走破性については従来から高い評価を得ている。タイヤの対角線に合わせてローラーを配置、いわゆる対角線スタック(タイヤが空転する状態)になったときに、他ブランドのSUVではそのままスタックしてしまうが、フォレスターは前に進むことができる。

そうした走破性の高さは、インターネットの動画サイトなどでも確認するこができ、多くのファンに知られている。実際、クローズドコースでの試乗においても、坂道でそうした対角線スタック状態を作ってみたが、タイヤの空転に構わずアクセルを踏んでいると、あるところで空転が止まりヌルヌルと前に進んでいく様が確認できた。

 しかし、フォレスターのAWDシステムはトルクスプリット型であり、機械式LSDを備えているわけでもなければ、センターデフロックもできない。LSD効果を生み出しているのはブレーキ制御によるものであって、その点において他ブランドのクルマとはさほど違いはないはずだ。

 そうした疑問を、車両実験などを担当しているエンジニア氏にぶつけてみた。その答えは理路整然としているもの。

 まずスタックを脱出できる理由として「ブレーキの独立制御により空転している側のタイヤをつかむことでLSD効果を生んでいるからです」という。いわゆるブレーキLSDのおかげというわけだ。前述したように、スタック時でも空転に構わずアクセルを踏んでいくのは、クルマ側にブレーキLSDを作動させる必要があると伝えるためのドライビングテクニックだ。

 とはいえ、ブレーキLSDという機能は、どのメーカーも装備しているもので珍しくはない。その中でスバルのクルマが走破性の高さを実現している理由についてうかがうと、「おそらくドライブシャフトの強度が高いことにあります。ブレーキをつかむとドライブシャフトに負担がかかりますが、シャフトの強度を上げていることなどで効果を発揮させる領域が広くなっています」と答えが返ってきた。

 新型フォレスターは悪路走破性を高めるドライビングモードとして「X-MODE」を進化させた。従来モデルはシングルモードだったが、「スノー/ダート」と「ディープスノー/マッド」の2モードを設定した。スノー/ダート・モードの制御自体は従来と変わりなく、その制御にトラクションコントロール・オフを加えたのがディープスノー/マッド・モード。

後者がターゲットとしているシチュエーションはタイヤが埋まってしまうほどの雪や泥道ということで、おそらくほとんどのユーザーはそうしたシチュエーションに向かうことはないだろうが、万が一ハマってしまった際に、最後の手段が残されているというのはSUVとしての安心感につながる。そして、本物志向の制御を受け止めるだけの強度を持つ駆動系がフォレスターの走破性を担保しているのである。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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