白タクだと命の危険も! ワールドカップでやっと整備が進んだモスクワのタクシー事情

巧妙なマフィアの違法タクシーに乗ると危険極まりない

 今回2年ぶりにモスクワに来て驚いたのは、街なかでタクシーが激増していたことである。筆者が初めてモスクワを訪れたのはリーマンショック発生直後の2008年11月。当時のモスクワにはタクシーというものは基本的に存在していなかった。

 外国人向けにはタクシーというものはあったが、あらかじめ予約して目的地まで運んでもらう送迎サービスに近いものであった。それではモスクワ市民はどうしていたかというと、わかりやすくいえば“ヒッチハイク”をしていた。

 大通りの道端で、日本で流しのタクシーに乗ろうとした時に手をあげる仕草をより独特にしたもので合図を送ると、気がついた一般車両のドライバーが手をあげたひとの近くにクルマを停め、向かう方面が同じことと、料金の折り合いがついたら乗り込んで連れてってもらうという、いまでいうところの“ライドシェア”の先駆けのようなものが主流であったので、一般市民レベルではタクシーという商売は成立しなかったのである。

 そんな時にモスクワのシェレメチェボ空港に降り立った筆者。預け荷物を受け取り到着ロビーに出てきたところでタクシー手配のカウンターがあると聞いていたので探していると、ひとりの紳士が「タクシー組合のものですが、タクシーをお探しですか?」と話しかけてきた。スーツを着込んでおり、ロシアの通貨のほか、ドルとユーロに換算表示もしている、ラミネート加工した料金表を見せてくれたので、すっかり信じ込んでしまいタクシーの手配をお願いした。案内してくれたのは古ぼけたチェコブランドのスコダのハッチバック車。

 ドライバーは“お兄ちゃん”という表現が良く似合う若者。“何か変だ”と思いつつスコダは出発。途中、人気のない白樺林へ向かったのだが、“渋滞していたから迂回しているのかな”と思っているうちに無事ホテルに到着。お兄ちゃんにチップと料金を渡してチェックインした。

 翌日取材先の企業の現地駐在員のひとに事情を話したら、「それはマフィアの違法営業タクシーですね。普通なら間違なく白樺林で身ぐるみはがされて殺されて埋められていたところですよ。よく助かりましたね」と軽く言われてしまった。

 そういえばお兄ちゃんドライバーは終始緊張していた。もしかしたら違法タクシー営業デビューで、筆者を殺すタイミングを逃してしまったのかもしれない。当時はまだまだモスクワは治安の悪い時期であったため、出張でやってきてひとりで歩きまわるのが信じられないとも言われていた。

 その後2014年、2016年とモスクワにやってきているが、空港からのタクシーでは、自分の見立てでは正規タクシーではない車両を利用していたと自覚している。それだけ相手も巧妙で信じ込んでしまっていたのだ。そして今回はもう怪しいタクシー(みたいな乗り物)に引っかかるのは嫌だったので、日本から日本語で予約できるタクシー手配サービスでタクシーを手配した。預け荷物を受け取りロビーに出ると、スマホに筆者の名前を打ち込んでドライバーが出迎えてくれた。料金は事前にクレジットカードで払い、ドライバーは気さくでおしゃべりだったで道中は快適そのものであった。

 ご存知のように、今年ロシアでワールドカップサッカーが開催されたので、それもあってタクシーが一気に増えたようである。サービスの良い(良さそうな)正規事業者が目立つなか、まだまだ怪しいタクシー(のような)もそこかしこで目立っている。モスクワには3つの国際空港があるが、タクシー手配の受付カウンター以外で声をかけられたら、それは“潜り”である可能性が高いので無視することをおすすめする。さすがに命の危険が迫るようなことはいまはないが、法外な料金を請求されるのは間違いないからである。

 まあ荷物の少ないひとは空港への移動や空港から市内中心部への移動は鉄道を利用したほうが確実かもしれない。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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