何を間違えた? フルモデルチェンジでユーザーから見放された伝統の国産車5選

グローバル化やコストダウンなど企業の都合でファンが離れた

 日本のファン向けに 本稿のテーマは「フルモデルチェンジでファンから見捨てられたクルマ」だが、ここで取り上げる5車種の経緯を見ると、「日本のファンを見捨てたクルマ」になっている。「クルマが売れなくなった」のではなく「売れる商品力を備えたクルマが減った」のだ。売れない原因はユーザーではなく、クルマにある。

1)日産GT-R

 2000年頃まで、クルマ好きの憧れはスカイラインGT-Rだった。スカイラインが運転の楽しいスポーティカーとして人気を高め、GT-Rはその上級版だった。

 とくに1989年に登場したR32型GT-R以降は、直列6気筒2.6リッターツインターボのRB26DETT型エンジンを搭載する。潜在能力の高いエンジンで、チューニングにより性能をさらに高めることも可能だった。中古車になって価格が下がると、若年層も購入しやすく、多くのクルマ好きを育てた。

 ところが2007年に発売された現行GT-Rは、まったく別のクルマになった。V型6気筒3.8リッターツインターボの性能は際立って高く、発売当時の価格は777万円だ。走行性能や装備を考えれば割安だが、メーカーの決めた使い方をしないと保証を受けられない場合もある。

 さらに現行GT-Rは改良のたびに価格を高め、今ではもっとも安価なピュアエディションでも1023万840円に達する。約246万円値上げされ、比率にすれば価格は発売当初の1.3倍になった(消費税率は異なるが)。かつては比較的身近だったGT-Rは、手が届かないスポーツカーになった。

2)日産スカイライン

 スカイラインはかつてGT-Rのベース車でもあり、高性能でカッコイイ身近なスポーツモデルだった。とくに4代目の「ケンメリ」は、1973年に1カ月平均で1万4493台を登録した。2017年は243台だから、45年前のスカイラインは今の約60倍売れていた。

 1993年に発売された9代目のR33型あたりまでは、手堅く販売されていたが、1998年の10代目では日産の業績も悪化して売れ行きが下がり、2001年発売の11代目以降は海外指向を強めた。12代目、現行型の13代目とボディが肥大化して、販売状況はますます悪化。

 現行型はフロントグリルにインフィニティ(海外で展開する日産の上級車ブランド)のエンブレムを掲げるなど、まさに日本を見捨てた印象だ。ファンが離れて当然だろう。

3)スバル・レガシィB4

 1989年に発売された初代レガシィと1993年の2代目では、レガシィセダンと呼ばれていたが、1998年の3代目でセダンにB4の名称が与えられた。この3代目も5ナンバーサイズに収まり、混雑した街中や曲がりくねった峠道でも運転しやすい。熟成された足まわりと独自の4WDにより、安定性と乗り心地の優れた大人のスポーツセダンであった。

 この後、2003年の4代目で3ナンバーサイズに拡幅されたが、全幅は1800mm以内に収まる。適度に機敏な運転を楽しめた。

 しかし2009年の5代目では、ボディがさらに大柄になって落ち着いた印象を強めた。2014年の6代目では、全幅は1800mmを超えてしまう。17インチタイヤを装着した仕様ならば乗り心地が快適で、後席も広いから大人4名が長距離を快適に移動できるが、スポーツ性は薄れてファンも離れた。

 以前のレガシィB4の後継はWRX S4なのだろう。適度なサイズで運転の楽しい上質なスポーツセダンになっている。

4)ホンダ・シビック

 1972年に初代モデルを発売したシビックは、前輪駆動の持ち味を生かす楽しい運転感覚で、若いクルマ好きから支持された。6代目までは3ドアハッチバックが用意されて高人気を保ち、そしてこの6代目には高性能なタイプRも追加されている。

 ところが2000年に発売された7代目では3ドアハッチバックが削られ、2005年の8代目は3ナンバーサイズのセダンのみになる。2000年以降は人気が急落して、2010年発売の9代目は国内で売られなかった。

 そして2017年に5ドアハッチバック/セダン/タイプRを復活させたが、以前に比べるとボディが拡大されて価格も高い。それでも1カ月に1500台前後を売ってホンダは成功したと見ているが、1990年頃の4〜5代目シビックは、1万台前後を販売していた。

5)日産マーチ

 日産の伝統あるコンパクトカーで、初代モデルは1982年に発売されて1992年まで生産を続けた。

 人気が高かったのは1992年から2002年まで生産された2代目だ。サイドウインドウの下端を低く抑えた水平基調のボディは、世界でもっとも視界の良い乗用車だと実感させた。全幅は1600mm以下に収まり、ボンネットがキッチリと見えるから、取りまわし性も抜群に優れていた。

 しかも良好な視界を確保しながら、外観の視覚的なバランスも取れている。2代目マーチは、工業デザインの本質を突いていた。

 今の日本車/輸入車に、マーチほど視界の優れたクルマはない。安全運転の第一歩は、車両の周囲に潜む危険を早期に発見することだから、今のクルマはずいぶんと危ないクルマになっている。

 4代目の現行マーチも視界に配慮したが、2代目に比べるとサイドウインドウの下端が高い。側方や後方の視界は悪化した。

 しかもインパネから乗り心地まで、全般的に質が低い。今のマーチはタイの工場で生産されるが、生産国の話ではなく、基本的な開発段階におけるコスト低減が悪影響を与えている。緊急自動ブレーキも装着されず、売れ行きは伸び悩む。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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