わずか数千円で「安全」が買える! レーシングドライバーが街乗り派にもサーキット走行を勧めるワケ (1/2ページ)

道交法を完全に遵守していても公道での安全は保証されない

 サーキット走行を経験したことのある方はどのくらいいるのだろうか。サーキットというとレース専用のコース施設だと思っている人も多いだろうが、実際はそれだけではない。車の走行テストやスポーツドライビングの練習場としても走行可能だし、自動車メーカーやショップなどが開催するサーキットエクスペリエンスイベントなども数多く開催されている。

 自分でレースカーを用意し、メカニックを従えてレース参加を前提に走行経験を積むというのは、相当敷居が高いしコストも半端なくかかる。たとえば富士スピードウェイのような本格的な国際サーキットを占有して練習走行しようとすると、1時間のコース占有代として66〜86万円もかかる。しかし、サーキットが発行するライセンスを取得し、カレンダーに登録された練習走行枠を利用すれば、4500円/20分から走行できるケースもあり、以前よりはずっとサーキット走行しやすい環境が整ってきているのだ。

 とはいっても、お金をかけてまでサーキット走行を経験する意味はあるのか。

 サーキットは基本的に速さを追求する場所だ。ゆっくり景色を見ながら走るということはほぼない。速く走るには危険も伴い事故のリスクも高まるだろう。一般道で道交法を遵守しスピードを控えて普通に走行していたら、危険なことには遭遇しないからスピード狂でもない限りサーキット走行なんて経験する必要はない、と考えるのが一般的なのだ。

 しかし、道交法を遵守しスピードを控えていれば安全が保証されているかのような考えは正しいとはいえない。たとえば山道の一般道。制限速度が60km/hとされている場所なら50km/hで走っていれば絶対安全だろうか。答えは「否」だ。見通しの良い直線ならまだしも、曲がりくねった山道だとカーブの半径が小さい場所も多い。日本の速度制限はカーブの大小で変化しないので50km/hではオーバースピードになってしまうケースもあり得るのだ。

 高速サーキットで知られる富士スピードウェイでも、もっとも半径の小さなシケインカーブ(ダンロップコーナー)は15R。そこではレーシングカーでも50km/h程度まで車速を落とさないとスムースに曲がれない。一般的な山道では15R以下のカーブも多く存在する。法定速度を守るだけではなく、自車のコーナリング性能やタイヤのグリップ限界をつねに意識し、そのカーブに合った速度にドライバーがコントロールしなければならない。

 それが40km/hなのか、30km/hかは条件により異なり一律ではない。晴れた路面状態のいい日なら大丈夫でも、雨によるウエット路面や降雪など路面のミューは常に変化している。車の挙動やグリップ限界をつねに感じ取り、適切なドライビングを心がけなければならない。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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