トヨタのハイパーカーがついに1月登場! 激狭な上にオープンの「超ニッチモデル」を市販する意図とは?

GRスーパースポーツは2021年1月11日に発表される

 トヨタGAZOO Racing(GR)が、2020年のWEC(世界耐久選手権)の一環として開催されたル・マン24時間耐久レースで優勝、ル・マン3連覇を達成したことは記憶に新しい。ワークスのライバル不在とはいえ、チームとしては2台しか走らせていないなかでの3連覇ということは、ここ3年間においてきっちりレーシングスピードで完走してきたことの証拠であり、トヨタの3連覇を支えたWEC・LMP1マシン「TS050」のレーシングハイブリッドシステムの信頼性が高いことを証明してきた。

 ハイブリッドといっても単なるエコユニットではない。1000馬力を超えるというレーシングハイブリッドは、モーターの特性を活かした鋭い加速力が特徴で、複数のクラスが混走するWECでは、周回遅れのマシンをパスする際に、その加速力を存分に発揮してきた。そして、いよいよTS050に採用されたテクノロジーが公道に舞い降りる日が近づいている。

 2018年の東京オートサロンにて「GRスーパースポーツ」として、その存在が明らかにされたWECマシン直系ハイパーカーのローンチが2021年1月11日となることがトヨタGAZOO Racing WECのTwitterアカウントによりアナウンスされたのだ。

https://twitter.com/Toyota_Hybrid/status/1312337269286670336

 日付が明らかになったことは注目だが、ローンチすること自体は驚くことではない。なにしろ、2020年のル・マン24時間耐久レースではスタート前に、「GRスーパースポーツ」のデモンストレーション走行が行なわれているのだ。カモフラージュされたボディは、これまで発表されてきたクローズド版ではなく、オープンバージョン。見るからにル・マンで3連覇を果たしたTS050の面影が色濃いシルエットだが、たしかにロードクリアランスの大きさや溝付きのラジアルタイヤを履いているあたりは、公道仕様のハイパーカーといった風情で、公道バージョンの登場は遠くないと感じさせた。

 とはいえ、キャビンは極小サイズで大人二人が乗ると肩がくっつきそうなほど。まったく実用性は感じられない。というわけで本当に市販するのか疑問に感じる向きもあるだろうが、そもそもハイパーカーを日常的に乗り回すというユーザーは世界的に見ても皆無だろうし、この手のモデルは基本的にコレクターズアイテムであって、ナンバーが付いているとしても多くの日々はガレージのなかで過ごすことが常。

 実用性よりも、その価値を高めるのは走りの実力であったり、はたまた「ル・マン3連覇したレーシングマシンの公道バージョン」といったストーリーと、それに見合うメカニズムやテクノロジーである。実際に何台程度を販売するのか、値段はどのくらいになるのか、そうした情報は現時点では皆目見当もつかないが、世界には意外に多くの富豪がいるもので、「GRスーパースポーツ」を求める顧客はそれなりに存在していることは間違いない。

 そもそも、トヨタGAZOO Racingが「GRスーパースポーツ」を開発している理由は、単に量産のハイパーカーを作ろうというためではない。2021年シーズンからWECのレギュレーションが変更され、最上級クラスはLMH規定という新しいレギュレーションに沿ったマシンで競われることが決まっている。そのLMHクラスに市販ハイパーカーで参戦するためには「2年間で20台以上を生産すること」が定められていた。度重なるレギュレーションの変更により、プロトタイプでの参戦も可能となっているが、トヨタGAZOO Racingのブランド価値を高めるためには、最低でも20台の生産と販売は成し遂げたいところだ。

 ただし、最新のレギュレーションによると、LMHクラス最高出力は500kW(約680馬力)に制限されるという。そこにアジャストすることを考えるとTS050hのパワーユニットをそのまま搭載する必要はなくなる可能性もある。そうなると、ル・マン3連覇のテクノロジー直系というイメージは失われかねない。その辺りの判断は戦闘力とブランディングのバランスが求められることになりそうだ。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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