まさかのワゴン車も! 何百台もの市販車からレーシングドライバーが選ぶ「本当に意のままになる」クルマ6選 (1/2ページ)

トヨタ車のハンドリングのベンチマークになったモデルも!

「人馬一体」とか「意のままに……」とか、クルマの運動性をアピールする美辞麗句は数多くあれども、実際にそれを体感させてくれるクルマはあまりない。今回は「高性能自動車評価ドライバー」として過ごしたこの40年間で、まさに「意のままに操れる」と感じさせてくれた名車を紹介しよう。

1)BMW M5

 いの一番にあげられるのはBMW M5だ。それも1991年ごろに生産されていたE34型に限る。BMWの中核をなすセダン5シリーズをベースにM社が作り上げた。3.6〜3.8リッターの自然吸気直6エンジンを搭載し、当時としては驚異的な300馬力以上を発揮させられていた。ゲトラグ社製の5速マニュアルトランスミッション(MT)が組み合わされ、モデル末期には340馬力までパワーアップされ6速MTとの組み合わせに進化させられていた。

 そのハンドリングはまさに「意のまま」だった。アクセルコントロールで車体姿勢を自由自在に操れ、ドリフトコントロールもおこないやすい。優れた前後重量バランスとシャシー剛性の高さで「人馬一体感」にあふれ、高速での高負荷時でも安定した性能を発揮していた。BMW M社には凄いテストドライバーがいるのだな、とつくづく思い知ったクルマだ。

 このM5を仕上げたテストドライバーは、この後BMW社を離れてしまい、後に続くE39型M5はハンドリングポリシーが一変してしまっていたことにも驚かされたものだ。余談だがE34型M5の素晴らしさをトヨタ自動車のテストドライバーであった故・成瀬氏に伝えると、さっそく個人でM5(アルピナ)を購入され、永く愛用しつつトヨタ車のハンドリングのベンチマークとしていたと伺った。

2)BMW Mクーペ

 同じBMW社の2ドアクーペモデルであったZ4をベースに、同じくM社がプロデュースしたMクーペも「意のままに操れる」ハンドリングを備えたモデルとして記憶している。

 登場年は2006年ごろ。1998年登場の第3世代となるE39型M5のハンドリングが不出来だったため、BMW 車の優れた操縦性はもう過去のものとなってしまったのかと諦めかけていた時期であっただけにMクーペの操縦性を確かめて安堵したものだ。高い限界性能と自由自在に行える姿勢制御は、あのE34型M5の血統を引継がれたものと確信できる走りで、例のテストドライバーの後継者が着任したのだと感じた。

 のちに知ったのだが、BMW社のテストドライバーは非常に多く、開発設計エンジニアもテストドライバーを兼任するケースもあるという。グループ毎にリーダーがいてE34型M5を仕上げたグループの仕上げたモデルは総じて「意のままに操れる」走りを授けられていたのだ。

 現在は世代も代わり、そのセッティングポリシーはずいぶんと薄れてしまったように感じていて残念でならない。

3)ジャガーXJ

 E34型M5のハンドリングを仕上げたメンバーが他社に移って仕上げたのではないかと思わされたのが2003年にフルモデルチェンジを受けて登場した「X350型」のジャガーXJだ。オールアルミの軽量ボディを初採用し、そのハンドリングは黄金期のBMW社製セダンを彷彿とさせる出来だった。フルサイズの大柄なセダンにもかかわらず、人馬一体感にあふれ、意のままに操れた。

 オートマティックトランスミッション(AT)の高級セダンながら最高のハンドリングを示していたのを知る人は少ないだろう。当時のジャガーはフォード社の傘下にあり、BMW社でE46型3シリーズを仕上げた優れたテストドライバーがフォード社に移ったと聞いていたので、彼らの影響を受けているだろうことは容易に想像できたのだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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