クルマ好きがクルマを売る時代は「過去の話」! 驚きのいまどきディーラーマン事情とは

新入社員が運転免許を持っていないということも……

 新車のセールスマンと聞けば、“三度の飯よりクルマ好きなひと”もしくは、“クルマに興味のあるひと”と思いがちだが、いまどきの、とくに若手になればなるほどクルマにはそれほど“こだわり”はないようだ。

 バブル経済末期に新車販売の世界へと4年制大学の学卒採用として飛び込んだA氏は、「同期のセールスマンはクルマ好きばかりでしたね。内定が出た段階で、内定学生を集めて新車を製造している工の見学も兼ねて慰安旅行に行ったりしていました。夜になると『欲しいクルマはどれ?』といった話に花が咲き、深夜まで語り合ったことをいまも覚えています。とにかく程度の差はありましたが、ほぼ全員がクルマ好きでした」と当時を懐かしんだ。

 好きこそものの上手なれとあるが、当時の休みが少なく、拘束時間の長い新車セールスマンの就労環境を考えれば、好きでなければやっていけないのだろうなと、外野は考えがち。しかし、A氏によると好きで飛び込んだ世界なのだが、同期入社のなかで1年も経つと、同期のあちこちから「辞めるよ」という話が出てくるほど、夢と現実が乖離した世界でもあったといえよう。

 最近新車ディーラーへの就職を希望する大学生の多くは、「一流メーカーの看板を背負っている安心感」など、“さとり世代”らしく冷めた目で割り切って入社してきており、「クルマ大好き」といった雰囲気を持つ若手セールスマンには、筆者もここ最近は会ったことはない。買う側であるお客も、バブルのころに比べれば、若いお客ほど“日常生活の移動手段”など、夢よりも実用性をメインで新車購入を検討する傾向があるので、売る側だけ盛り上がっていても、お客にドン引きされるだけかもしれない。

 前出A氏は、「自分はすでに業界を去っていますが、元同僚などに話を聞くと、『好き嫌いは別としても、クルマ売るのに運転免許もなく入社してくるひともいる』と、少々呆れ顔でした」と語る。淡々と新車購入をお客に勧めるにしても、免許がなければ自分で試乗もできないので、どうやってお客を買う気にさせるのか理解できないと、ベテランの間では不思議がっているとのこと。

 ただ、前出A氏が新車販売の世界に入ったバブル経済のころ以前は、異業種から歩合給の良さを見て飛び込んでくるひとがほとんどだったので、クルマに対して特別な思い入れはなかった。つまり、多くの新人が「クルマが好きだから」といって新車販売の世界をめざしたのは一時的なもので、いまどきの若い世代の割り切りの良い感覚はある意味、“元に戻った”ともいえそうである。

 しかし、「新車セールスマンの仕事は、先輩の売り方を見て技を“盗んで”自分のものにしていくことがほとんどです。ただ、いまの若い人は入社すればすぐにベテラン並みに売る自信があるといったオーラを感じます。そのため、ベテランに質問したり、商談に同行することなどはまずしないようです。ベテランが何か言おうものなら“パワハラ”や“セクハラ”だと騒がれるのも嫌なので、先輩たちもあまり相手にしないケースもあると聞きます」とは業界事情通。

 昭和時代を引きずり、店頭で長い時間膝を合わせてセールスマンと交渉しなければ、値引きも含めた好条件が引き出せないシステムは、もともといまどきの若者には理解のできない世界であり、引き気味になるのも仕方がないのかもしれない。その意味では、「いまどきの若手は~」というよりは、その若者からアイディアを出してもらい、デジタル対応できる環境整備ができれば、リモート商談がメインになったりする、ニューノーマルに合わせた新しい新車販売の世界が容易に構築できるのではないかとも考える。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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