エンジン搭載「位置」だけじゃなく「向き」も重要だった! 「横置き」「縦置き」で何が変わるのかレーシングドライバーが解説 (2/2ページ)

リヤエンジンは縦置きが基本とされている

 横置き縦置き問題はFFレイアウトだけでなく、MR(ミドシップ)やRR(後輪駆動)でも議論される。ただFRに関しては横置きの選択肢はない。

 かつてスポーツカーにとって理想的なレイアウトとされたのは、ミドシップの縦置きエンジンに横置きのトランスミッションを装着する形式だった。1980年前後にフェラーリがF1(312T)で採用し、故ニキ・ラウダの活躍で年間チャンピオンを獲得した。フェラーリ312Tのエンジンは水平対向12気筒で、これを横置きすることは考えられなかった。

 ホンダは第一期F1挑戦期に12気筒エンジンを横置きしたF1マシン(RA270〜272)を走らせ、注目されたが、空冷エンジンとモーターサイクルの横置きノウハウが活かされたからこその独創的なレイアウトだった。12気筒の大きなエンジンを横置きすることで前後長を小さく収めることができ、重心近くに設置することでヨー慣性質量を重心軸近くに集中させることができるメリットもあった。

 だがミッドシップで横置きすると排気管の取りまわしが難しく、またトランスミッションも専用設計する必要があり高コストを避けられなかった。ホンダも3リッターとエンジンが大型化した以後のF1はすべて縦置きレイアウトを採用している。そして現代のF1はパワートレインはすべて縦置きだ。

 フェラーリ312Tのレイアウトは市販車F355などV8ミドシップモデルに継承され、ホンダの横置きも市販車NSXに応用された。

 リヤエンジンではポルシェ911や旧フォルクスワーゲン・ビートルに代表されるように縦置きエンジンであることが効率的だ。それをそのまま前後反転すれば縦置きエンジンのFFが完成する。横置きFFのパワートレインをそのまま反転して横置きレイアウトのRRとすることも技術的には可能といえる。

 ただ運動性能、パッケージング、コスト、デザインとの融合などさまざまな課題をクリアしていかなければならず、商品としての総合的な競争力として現在は採用されていない。

 4WD化すると、横置き化のメリットがさらに大きくなる。前後にトランスファーを取り出しやすく、レイアウトしやすい。縦置きFRで4WD化するとプロペラシャフトを前→後、後→前と2本装着しなければならず、構造が複雑になる。日産GT-Rのようにトランスミッションをリヤアクスルにマウントしている場合、完全に2本のプロペラシャフトが必要になり、重量、スペース効率、コストなどすべての面でマイナス要素が大きい。それを補うにはハイパワーなエンジンと高度な駆動力配分機能が必要で、GT-Rはそこを進化させることで完成度を高めてきたのだ。

 トヨタ自動車はFRクラウンの生産を将来的にやめるという噂がある。コスト高なFRはレクサス・ブランドに集約するのが狙いだろうか。マツダは時期CX-5(CX-6?)を縦置きエンジンにすると言われている。価格が現状より跳ね上がるのは確実だろう。

 電動化の場合はモーターの縦置きと横置きで特性が変わりそうだ。マツダMX-30EVはガソリンエンジンの位置にモーターを横置き配置してトルクステアに苦しめられている。

 ホンダ・NSXのフロントアクスルやレジェンドのリヤアクスルにはモーターを左右輪個別に横置きしていてトルクステアを回避しているが、1輪には1モーターの最大トルクしかかけられない。三菱は大パワーの1モーターからデファレンシャルを介して左右輪に駆動力配分する仕組みを採用する。この場合はモーター縦置きがスペース効率的に良さそう。今後の電動化時代にもパワートレインの縦置き、横置き問題は議論され続けることになりそうだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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