相対速度40km/hはかなり危険! 高速を走る大型トラックと乗用車の「事故」を回避する鍵は「キープレフト」にあり

追い越し車線を走り続けないという基本を徹底することが大事

 日本でも、高速道路での100km/h制限が一部で緩和され、120km/hまで可能となる区間が誕生している。日本の高速道路は、1967年の中央高速道路が最初で、71年に高速道路の文字が外れ中央自動車道と名称が変更された。中央自動車道の速度制限は全線で80km/hだ。これに対し、東名高速道路は100km/hであり、東北自動車道と新東名高速道路では、120km/hに引き上げられた区間がある。

 120km/hで走行できるのは、これまで100km/hで走ることが認められていたクルマのみで、80km/hでの走行が求められている大型トラックなどはそのままだ。ただし、追い越しの際には90km/hでの走行は認められてきた。

 いずれにしても、乗用車と大型トラックとの速度差はこれまで20km/hだったが、120km/hで乗用車が走れる区間では、速度差が40km/hまで広がる。1秒間に10m以上の差が付く速度の違いだ。一瞬の判断の遅れが、事故につながりかねない。ちなみに100km/hだと、1秒間で5mの違いになる。

 つまり120km/hで運転するということは、それだけ運転への集中力が求められ、まわりの状況変化にも注意をより怠りなく、何か突発的な動きに対処できる必要性が高まる。ただし速度制限が120km/hの区間であっても、その速度で走らなければいけないということではない。100km/hでも80km/hでもかまわないことも知っておくべきだ。

 ところで、速度無制限区間のあるドイツのアウトバーンでも、長距離トラックの制限速度は80km/hだ。瞬間的な判断の間違いによる危険性はもっと高い。事故が起きれば、その被害はより甚大なはずだ。それでもなぜ、大きな速度差が認められているのか?

 アウトバーンを走ると、交通の基本が守られているのを知ることができる。つまり、左側通行の日本でいえば、キープレフトの大原則がドイツでは(右側通行なのでキープライトとなる)きちんと守られているのである。日本のように追い越し車線を延々と走り続ける長距離トラックを見ることはない。また、200km/h前後の速度で走らない乗用車は、3車線の真ん中の車線を走るし、右端(日本なら左端)の車線が空いていればそちらを走る。

 ドイツでは、長距離トラックの職業運転者はもちろん、一般市民も、交通の大原則であるキープライト(日本ならキープレフト)を守ることが徹底されているのだ。したがって、事故が起きないことはないものの、あちこちで事故が頻発することはない。

 そして、ポルシェなど高性能車に乗り200km/h以上で走行する運転者には、他車が車線変更して追い越し車線へ入ってきても、安全を守るのは高速で走行するほうのクルマの責任とされている。つまり、高速で運転するなら、それなりの技量や周辺のクルマの動きへの注意力が求められるのである。

 日本のように漫然と追い越し車線を走り続けるような運転は、ドイツでは許されない。それこそ、ハイビームやパッシングをされて追い越し車線から出ることが要求される。日本ではそれをあおり運転というが、傷害地事件などを起こすことは論外であるものの、交通の大原則、クルマは左、人は右ということさえ、国内ではなおざりにされていることが、制限速度を上げられない要因のひとつともいえるのではないか。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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