さすがにマイバッハにSUVは不要じゃない? GLS 600が存在する「至極単純」な理由 (2/2ページ)

顧客からの要望があるからマイバッハはSUVを作る

 GLSベースのマイバッハは、Sクラスのセダン、カブリオレ、Gクラスに次ぐ、再復活後4番目のモデルということになる。つまり、大型エンジン以外は超高級車しか手掛けてない、という歴史は継続してるわけだ。

 GクラスをベースにしたG 650ランドレーは世界限定99台、車体後部のみオープンとなるリヤシートのVIPが開放的な移動を楽しめるクルマ、という特殊な位置づけだった。が、GLS 600は、そういう意味では標準的なSUVといえるだろう。

 ここで「どうしてマイバッハがSUVを?」「マイバッハにSUVって必要なの?」というところに戻るわけだ。

 答えはシンプル。売れるから、である。売れるから必要なのだ。ポルシェがカイエンを作り、ベントレーがベンテイガを作り、ランボルギーニがウルスを作り、ロールスロイスがカリナンを作り、アストンマーティンがDBXを作り、フェラーリがプロサングエを開発してるのも、同じ理由だ。

 マニアックなクルマ好きになればなるほどそうした傾向を否定したがるようだけど、顧客たちに望まれているからこそ生まれてくるわけだし、望まれてるからこそ売れるのだ。超高級スポーツカー・ブランドには家族で移動できたりアシにしたりできるモデルが本筋と並行して必要だったし、それまでセダンで勝負してきた超高級車ブランドには、従来以上の快適な移動を可能にする”箱”が必要だった。

 それにはSUVというカテゴリーに新しいモデルを投入するのがもっとも都合がいい。そこに顧客たちの支持が集まっても、何ひとつ不思議はない。

 視界はいい。室内スペースを広く使える。ホイールのトラベル長がたっぷりしてるから乗り心地も確保しやすい。車体の形状からしてもイメージからしても生活感のようなものは希薄だし、といってビジネスライクに過ぎたりもしない。SUVは、いろんな意味でちょうどいい。だからこそ世界中で人気が高いわけで、SUVが持つその美点は超高級車にだって十分に活きるのだ。

 マイバッハGLS 600を見ても、単純にゴージャスにして上質なしつらえが極まってるだけじゃなく、3列目のシートを取っ払って2列目を2座とし、その2列目の位置を120mm後方に、30mm内側にずらしてレッグルームの長さを1103mmまで伸ばし、シートバックを43.5度までリクライニングさせられるだけじゃなくオットマンも備わり、左右のシートの間にはシャンパングラスが格納されシャンパンボトルを3本入れられる冷蔵庫も標準装備され、座席と荷室の間はガッチリとしたパーセルシェルフと固定式パーティションで分離され、乗降性を高めるドア連動式のステップは後席の部分の幅が広く作られ……と、完全なショファードリブン対応といえる作り。それらは間違いなく、SUV特有のボディ形状があってこそ可能になったものといえる。

 繰り返しになるけれど、確かにSUVは世界的に支持を集めてる=流行ってるカテゴリーだ。が、超高級ブランドにしてみれば、単に流行ってるから後追いしたわけじゃなく、SUVを作るには作るなりの理由がきっちりと存在してるのである。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
-

新着情報