歴代V12エンジンのなかでもダントツの快音
僕はムレーナとアヴァンタイムの所有経験がある。先進的・独創的な思想に惹かれていたことが理由だが、ロードカーはすべて提携相手の量産エンジンを搭載していた。しかし、レーシングカーは違った。自社開発の3リッターV型12気筒を積んでいたのだ。
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F1での戦闘力はトップレベルではなく、チャンピオンを獲得したマシンはフォードコスワースDFVを積んでいた。しかし、プロトタイプとは相性が良かったようで、ル・マン3連覇はすべてこのV12によるものだ。
モータースポーツファンの間では、このV12は「マトラソプラノ」という形容詞とともに愛されている。今もYouTubeなどで聞くことができる、突き抜けるようなハイトーンを、僕はフランスのイベントで何度か耳にしたことがある。
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フェラーリやランボルギーニ、そしてわがホンダなど、V12を手がけたメーカーは数多いけれど、その中でもダントツの快音だと断言できる。しかも前に書いたように、音だけなのではない。強さを兼ね備えていたのだ。
ロードカーの工場があったフランス中部の都市ロモランタン・ラントネには、エスパス・オートモビル・マトラというミュージアムがある。僕は2005年にここを訪れたことがある。
フランス・ロモランタン・ラントネにあるミュージアム「エスパス・オートモビル・マトラ」画像はこちら
館内はフォーミュラやプロトタイプスポーツがずらっと並び、フレンチブルーの海と言いたくなる光景。そして片隅には7基のV12がショーケースに収まっていた。壁には当時のレースシーンの写真。あの素晴らしすぎるサウンドを耳にしながら、サーキットでフルスロットルを試してみたいという思いに駆られた。
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あれから17年。今もその気持ちは揺るぎない。