たかがクルマの運転じゃない! レーシングドライバーはトップアスリートでなければ完走すらできなかった (1/2ページ)

この記事をまとめると

■レーシングドライバーは「速いマシン」を操るだけでいいと思われている

■レーシングドライバーには首にかかるGに耐える筋力や重いステアリングを操作する腕力などが必要

■トップカテゴリーで走るレーシングドライバーはオリンピアン同様に「トップアスリート」だ

レーサーがトップアスリートであることを知る人は少ない

「アスリートファースト」の理念のもと「東京オリンピック2020」が開催され、世界中がアスリートの熱い闘いに視線を注いだ。オリンピック種目にあるようなスポーツ競技に参加する選手はトップアスリートとして多くの努力と苦労を積み重ね、実力を磨き上げて人々に感動を与えることができるのである。

 オリンピック競技にはモータースポーツは含まれていないが、じつはレーシングドライバーもまたオリンピックカテゴリーの選手達と同様に厳しい身体的鍛錬を重ね、多くの労力を注ぐことで輝きを増せるスポーツなのだということを知る人はあまり多くない。

 柔道や水泳、テニスもサッカーも、人が力と技を発揮し競い合う。それは誰の目にも厳しい鍛錬なくしては成り立たない競技であると明白に映る。だが、レーシングドライバーはどうだろう。速いマシンに乗って、ハンドルとペダルを操作して走らせるだけ。それは身体的な鍛錬の必要性を見る人に感じさせない。そもそも日常生活的でも運動して身体機能を高めるためには徒歩で出かけることが善とされ、クルマを使っての移動は「楽」をするためととらわれているだろう。

 レーシングドライバーは「楽」して速く走るために「速いマシン」を操るだけでいいと思われているのだ。
僕自身、レーシングドライバーとして走り始めたころは身体的な鍛錬など必要ではないと考えていた。もちろん身体能力や持久力が高いにこしたことはないが、多くのオリンピックアスリートが行っているような日々の激しいトレーニングなどは必要ない。それより感覚的なドライビングセンス、レーシングカーを速く走らせる理論的知識の方が重要だと考えていた。

 だが、国内のトップカテゴリーにステップアップすると、高い身体能力が備わっていなければ、とても速いフォーミュラカーを走らせ続けることは出来ないと思い知らされた。

 1989年、国内トップフォーミュラであったF3000カテゴリーにステップアップして参加した最初のテスト。ウエットの鈴鹿サーキットで行われた午前中の第1セッションで、何とトップタイムを記録できた。それはドライビングポジションを見直し、ヒップポイントをより低く重心に近い位置に近づけ、ペダルレイアウトを手前にしてドライバー搭乗時のマシンの前後重量配分を徹底的に煮詰めてサーキットに乗り込んだ成果だった。

 しかし、午後に路面がドライに変わると、壮絶な横Gが全身にかかり、5周も連続して走れない。まず首がGに痛められて垂直を保持できなくなり、重いステアリング、踏力の必要なブレーキなど腰への負担が高まって身体が悲鳴を上げてしまったのだ。結局、ほかのドライバー達が取っている直立に近い運転姿勢になるようシートポジションを戻すはめになってしまったのだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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海外巡り
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クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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