巨人トヨタでさえ他社の力を借りなければ厳しい! 思った以上にハードルの高いEV時代への適応 (2/2ページ)

トヨタにないノウハウを提携によって補って未来を切り開く

 提携の実績として、スバルとはスポーツカーのGR86や、電気自動車(EV)bZ4Xの導入につながっている。マツダとは、商品企画と車種改良を結び付けた一括企画という手法で、付加価値のあるクルマを常に進化し続けることに役立っているのではないか。

 では、軽自動車で直接的な競合関係にあるスズキはどうなのだろう。現状では、まだ明確なトヨタの利点は見えにくい。しかし、今後の展開を考えると、効果が期待できるのではないか。それは、電動化だ。

 原価に厳しい軽自動車においては、数の確保が何より重要だ。モーターやリチウムイオンバッテリーという原価の高い部品を新たに開発し、これを軽自動車に適用するのは容易ではない。スズキが、エネルギー回生を行うエネチャージという技術を導入するに際して、5セルのリチウムイオンバッテリーの採用に大きな決断を必要としたとされている。

 一方、日産と三菱自は、新型軽乗用EVで、補助金を活用すれば200万円を切る車両価格を達成した。背景にあるのは、リーフで累計60万台を販売してきた実績を持つリチウムイオンバッテリー、ノートe-Powerの4輪駆動車用の後輪モーターの流用、また最新のアリアからも活用している部品があることだ。すでに実績があり、耐久・信頼性も確保され、そして大量な生産を積み上げてきたことによる原価低減があってはじめて、軽自動車として納得できるEV価格を実現したのだ。

 しかし、トヨタにはまだリチウムイオンバッテリーをEV用として大量に利用した実績はなく、bZ4Xで使うものは、600万円相当のEVの原価の域を出ないだろう。トヨタは、エスティマハイブリッドからE-FOURという後輪モーターによる4輪駆動を導入している、あるいはアクアはモーター走行領域を増やしたが、それらモーターを軽自動車用に流用できるか私にはわからない。ただし、モーターはエンジンと違ってしっかりした技術と寸法の検討がなされていれば、軽自動車から登録車を含めた幅広い転用は可能だ。制御系の半導体を含め、流用部品の調達ができなければ、軽自動車用の原価低減は難しいだろう。

 そこを突破するためには、ダイハツとスズキを併せた数の確保は重要であり、またインド市場で50%の占有率を持つスズキが、インドでの電動化を進めるのであれば、その販売台数も勘定に入れることができそうだ。

 高額なEVでさえ、ポルシェ・タイカンとアウディe-tronに共通性があるように、部品の流用と大量な数の確保という合わせ技で対処しなければ、EVへの道のりは遠いといえる。トヨタといえども、提携による利点を摸索しなければ、EV化する市場への適応が難しい時代といえるのではないか。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

新着情報