話題の新型クラウン! ぶっちゃけ乗ってどうでした? 【ド直球インプレ 嶋田智之編】 (2/2ページ)

ワインディングを気持ちよく走ることができた

 今回の試乗車は、2.5リッター直列4気筒エンジンのハイブリッドで、リヤにもモーターを持たせた4WDの“E-Four”。エンジンが最高出力186馬力で最大トルクは221Nm、フロントモーターが119.6馬力と202Nm、リヤモーターは54.5馬力と121Nmで、システム最高出力は234馬力となる。もうひとつのRSがシステム最高出力は349馬力ということを考えると、こちらがクラウンのスタンダードな仕様ということだろう。

 走らせてみると、さすがに従来からのものを熟成させてきたシステムだけあって、文句のつけどころが見つからない。発進から滑らかで力強く、街なかでは緩慢さを感じることはない。もちろん静かで、そういうところに高級車らしさを感じたりもする。高速道路の巡航や追い越し、ワインディングロードでのコーナーからの立ち上がりでも、まぁ不満を覚えることはないだろう。まぁ走り屋や飛ばし屋にとってはものたりないかもしれないけど、そういう人は後発のクラウンRSを選ぶに違いない。そうではないジェントルマンにとっては加速力も十分だし、速度の乗りも悪くないと感じるんじゃないか? と思う。エンジンを高回転までまわすと思いのほかサウンドが高まって、それまでの静かな空間をちょっとばかり賑やかに演出するのだ。それは新しいクラウンをはっきりドライバーズカーとして位置づけてるから、かな? 音質がさほど悪いというわけでもないので耳障りとまではいわないが、ここはちょっと驚いた。

 もうひとつドライバーズカーっぽいと感じたのは、望外によく曲がるハンドリングだ。道幅が広いわけでもなく、ときどきタイトなコーナーが思い出したように出現するワインディングロードはさすがに得意分野とはいえないだろうと予想してたのだが、まったく苦ともしないどころかすっかり気持ちよく走り抜けさせてもらえた。ドライバーのステアリング操作に対して車体の反応に遅れはなく、正確に動いてくれるような印象。きつめのターンではスイッとノーズを内側に向け、長いコーナーではしっかり腰を据えた感じで、走りたいラインをしっかりトレースしていけるのだ。必要に応じて後輪の駆動もコントロールしてくれるE-Fourが効いてるのだろうが、“ダイナミックリアステアリング”と呼ばれる4WS機構が備わってることも大きく作用してる。あまり大きなロールを覚えることなく安心感とともにコーナーを駆け抜けられるのも、この機構のおかげだろう。

 乗り心地に関しては、結構快適な部類だと思う。サスペンションの動きの大小にかかわらず、比較的一貫した上質な乗り心地を味わえる。クロスオーバーとしての理想的なスタイリングを完成させるために選ばれた21インチという大径ホイールとハイトの薄いタイヤを履いているのに、快適性にはさほど悪影響を与えていないように感じられたはちょっとした驚き。いや、で段差を踏み越えた瞬間などにはもちろんはっきりしたインパクトを感じることはあるのだけど、不快という言葉を使うような衝撃ではないし、それ以外ではしなやかでたっぷりとしたゆとりも感じられて、心地好い。基本、癒しのクルマなんだな、とすら思えたほどだ。車格や価格から考えてもちゃんと納得のゆく乗り味を提供してくれてる。クラウンという名前に恥じるべきところは一切ない。

 そう、新型クラウン・クロスオーバーの出来映えは、かなり上々なのだ。1台のクルマとしての満足度は、結構高いと思う。クラウンらしいか? と問われて、見た目はいまっぽく若返ってるけど乗り味のなかにある矜恃は間違いなくクラウンでしょ、と素直に答えられるくらいに。クラウンとは、それを得た人を讃えるためのモノ。オーナーを讃えるための快適性や走りの良さ、何にも恥じることのない存在感を持つクルマ。それこそが長い歴史の中で培ってきたクラウンの精神性であるなら、新型も紛うことなきクラウンだ。クラウンのユーザーは、カタチじゃなくそういうところを求めてきたのだろう。

 新型クラウンの受注の初速は、素晴らしく好調だ。発売約1カ月後の段階で約2万5000台。しっかりと世の中に受け入れられている、ということの何よりの証だ。買う気があるわけでもない(というかクラウンだけじゃなくてこの大きさのクルマを買う気がないし貧しいので買えないというのが正解なのだけど)僕のようなヤツが無駄に考えたり余計な心配をしたりしてるうちに、買う人はためらいなくこれをクラウンと認めて買ってる、ということだろう。

 16代目クラウンが描き出すストーリーは、まだスタートしたばかりだ。これからファストバックっぽいセダンもエステート系SUVもホットハッチ風スポーツ系SUVも、順に登場することになる。クラウンがこうであってもいいと素直に感じてるいまは、それらの登場がちょっと楽しみではある。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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