「ボディはダンボール」「最高速はレッカーされてるとき」 都市伝説だらけの東ドイツの国民車「トラバント」のホント (1/2ページ)

この記事をまとめると

■東ドイツの国民車ともいえるトラバントを紹介する

■「ボディはダンボール」といわれるが、実際は木綿とフェノール樹脂による積層素材

■1958年から1990年までマイナーチェンジをしながら生産された

ボディはダンボールではなく木綿と樹脂

 ひところブサカワ、つまり不細工だけどカワイイという言葉が流行りました。ブサカワ選手権をクルマでやるとしたら、トラバントは優勝候補であること間違いないでしょう。とにかく、幼児の落書きだっていくらかマシってくらいの不格好で、現代の基準どころか現役当時の基準からみても途方に暮れるような低性能。なるほど「ダンボール」でできているという噂が定説化するのも不思議ではありません。

 もっとも、出来の悪い子ほど可愛らしいということもあり、トラバントのブサカワ人気は衰える兆しもありません。

 トラバントは1958年、ドイツが東西に分断されていた頃、東ドイツのVEBザクセンリングという自動車メーカーによって作られた国民車のような存在。

 ちなみに、VEBは国営企業を表した略語(Volkseigener Betrieb)です。社会主義国だけあって、国民は皆18歳になると予約申し込みが可能となりましたが、納車までは10年とも15年とも! 理由は東ドイツの工業力の弱さや、慢性的な資源不足などが挙げられていますが、この納期遅れが原因で、新車より中古車の方が高くなったという現象もあったようです。

 愛されているがゆえに、トラバントにはジワるエピソードというか、小咄もたくさんあります。たとえば「トラバントの下取りを倍にしたいときはどうする?」「簡単だ。ガソリンを満タンにすればいい」とか、「トラバントの最高速はいつ出る?」「レッカーにけん引されているとき」とか、なかでも「トラバントはふたりで作ってるって本当か?」「本当だ。ボール紙を折る人とそれを貼り付ける人」というのはトラバントの「ダンボールでできている」伝説に紐づいているのかと。

 ですが、後にも先にもトラバントがダンボールで作られた事実はありません。前述のとおり、東ドイツでは鋼鉄が不足していたため、シャシーこそ鋼鉄のフレームが使われましたが、ボディは熱可塑性樹脂で、木綿とフェノール樹脂による積層素材です。木綿というのがなんとも味わいある響きですが、東ドイツの技術者が知恵を絞り、入手しやすい材料でなんとか作り上げた素材ですから、もう少し評価されてもいいようなものです。もっとも、複雑な面も作りづらく、また塗装の乗りもよくないので、ダンボールっぽい仕上がりですけどね。

 搭載されていたのは2気筒2サイクル空冷エンジンで、当初500ccからスタート。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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