ガチのカーボンブレーキはじつは市販車向きじゃない! 航空機やF1で使われるブレーキシステムは何がスゴイのか? (1/2ページ)

この記事をまとめると

■「カーボンブレーキ」について詳しく解説

■文字どおりカーボンを素材としたディスクを持つブレーキシステムを指す

■最高峰のブレーキシステムとされるが、使い方によってはメリットが得られない

もともとは航空機用として考案されたシステム

 自動車は、機械工学、電気工学、電子工学、材料工学といったテクノロジーの集大成による工業製品である。つまり、コストを投入すれば、その分だけ性能を向上させることができる、という側面を持っている。わかりやすく言えば、市販品いわゆるノーマル状態の車両性能を引き上げようとすれば、各部をチューニングすればよく、コストの投入分に応じた性能向上が期待できる、という関係が成り立つことになる。

 しかし、何事にも例外はつきもので、ブレーキのアップグレードもそのひとつと言ってよいだろう。ブレーキは走る車両の運動エネルギーを熱エネルギーに変換して大気中に放散、それによって減速、停止の変化をもたらす機構で、基本性能の向上を基本メカニズムに置き換えて並べてみると、型式はドラムブレーキ→ディスクブレーキとなり、ディスクブレーキはローターの形状からソリッドディスク→ベンチレーテッドディスク、さらにスリット入り、ホール(貫通穴)あるいはディンプル(窪み)の設けられたもの、そしてキャリパーはシングルピストン(=ポット)→2ピストン→4ピストン→6ピストン、ブレーキパッドはノンアスベスト(セミメタリック/ロースチール/ノンスチール=アラミド繊維、銅繊維、真鍮繊維、セラミック繊維など)→焼結合金系(銅、真鍮、鉄)、C/Cコンポジット(カーボン)系と高摩擦系あるいは高耐摩耗性へと段階的に変化していくことになる。

 ところで、これらのアップグレードは、基本的には鋳鉄ローターを持つ従来のディスクブレーキを前提としたものだが、最近、最高峰のブレーキシステムとしてカーボンブレーキ(じつは、そんなに最近ではないのだが)の認知度が高まっている。では、カーボンブレーキとはいったいどんなブレーキなのか、この点についておさらいしておこう。

 文字どおりカーボン(炭素)を素材としたディスク(ローター)を持つブレーキシステムで、レースカー用として使われ始めたことで知られているが、もともとは航空機用として考案されたシステムである。発端となったのは1972年、ビッカース社のVC10で試験的に採用され、1974年にコンコルドで本格採用となった。レースの世界ではこれより2年ほど遅れた1976年にブラバムBT45(F1)で試され、1984年のマクラーレンMP4/2(F1)で常用メカニズムとして採用される道のりを歩んでいる。

※写真はマクラーレンMP4/2C

 ローター素材のC/Cコンポジットとは、カーボン・カーボン・コンポジットのことで、炭素繊維を炭素で強化した複合素材で、軽量、高強度、高弾性といった特徴を備えている。比重は、炭素繊維と炭素の配合割合から異なってくるが、約1.5〜1.6といったあたりが多く、単純に鉄と比べた場合5分の1程度と超軽量な素材である。

 カーボンを使用したブレーキシステムとして見た場合、絶対重量が軽く耐熱性が高い(=熱エネルギーの放散量が大きい)ことから、高速域からの強力な制動力が必要な航空機(コンコルドの着陸速度は160ノット=296km/h、ボーイング777/787もほぼ同じで最速着陸速度の部類に入る)でカーボンブレーキが着目されたのは、当然の成り行きと言えるものだった。


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