ホンダZR-Vは「HV・ガソリン」と「FF・4WD」に「ZとX」で全部で8通り! 全部に乗って悩ましすぎるグレード選びを考えてみた (2/2ページ)

予約受注比でわずか10%のガソリンモデルは走りがいい

 では、予約受注比率で約10%でしかなかったガソリンターボに乗り換えるとどうなるか。パワーユニットのスペックが178馬力、24.5kg-m、WLTCモード燃費13.9km/L、車重1540kgとなるガソリンターボ Z 4WDを走らせると(約400km走行した)、同じ4WDでも、e:HEVの4WDに比べて90kgも軽いことが功を奏し、こちらのほうが明らかに低速域から軽快かつパワフルで、中高回転域ではホンダのパワーユニットならではのスムースなエンジンフィール、伸びやかな加速感、気持ちよさを味わわせてくれるのだ。そして速さの点でもe:HEV 4WDモデルを上まわる印象だった。

 スポーティな前席の着座位置と乗り心地を示すZR-Vだが、e:HEVモデルがそうであるように、このガソリンターボモデルでも4WDの乗り心地は比較的しっとり重厚で、段差の乗り越えなどでのショックはマイルド。e:HEVのFFモデルで感じられた、キツイ段差を乗り越えた際に発生することもある鋭利な突き上げ感はまずないと言っていい。乗り心地面(と安定感)で有利なのは、4WDということだ。

 ちなみにラゲッジルーム床下収納は、e:HEVモデルだと手前に少々あるだけなのだが、ガソリンターボモデルならフロアのほぼ全体が2分割の床下収納になっており、使い勝手面でのメリットがある。

 最後に試乗した、4台目のZR-Vが、最廉価となる車両本体価格295万9100円のガソリンターボ X FFグレードだった。最廉価といっても、先進運転支援機能=ホンダセンシングの内容は全グレード同じであり、装備的に大きな不満が出ることはまずないと、実際に数日間に渡って試乗して感じた。

 具体的には、電子パーキングブレーキ&オートブレーキホールド機能のほか、このXグレードでもブラインドスポットモニター、フルLEDヘッドライト、ヒルディセントコントロール、ヒルスタートアシスト、ドライブモ―ド、パワーテールゲート、シートヒーター(4WDのみ)などが備わり、11.4インチのホンダコネクトナビのオプション(約31万円)が装着された状態では、欧州プレミアムSUVに迫る内外装、文句なしの使い勝手のよさが手に入ると考えていい。

 で、その走りはどうかと言えば、目から鱗であった。そう、ZR-Vのなかでもっとも軽快感と人車一体感があり、動力性能(178馬力、24.5kg-m)の余裕を加味すれば、いま乗っているのがSUVとはとても思えないほどのスポーティな走りっぷりを披露してくれたのだった。ターボエンジンは出足、アクセルペダルを踏んだ瞬間に気持ちよくレスポンスし、そこから加速していけば、ホンダ製ガソリンターボならではのトルクが沸き上がり、走りは思いのほか痛快だ。何しろ車重はZR-V最軽量の1460kg。e:HEV FF Xが1560kg、ガソリンターボ4WD Xが1520kgと、それらに比べてそれぞれ100kg、60kgも軽いのだ。

 カーブや山道での安定感は文句なく、重心高をほとんど感じないままカーブ、クネクネした山道をスポーティに駆け抜けることができた。クルマの基本性能は車重に大きく影響されることを、改めて実感させてくれた場面だった。ただし、e:HEVもそうだが、乗り心地面では重量級の4WDが有利。このガソリンターボFFは、ZR-V 4WDはもちろん、ライバルに比べても硬めの乗り心地を示すのだが、ZR-VガソリンターボFFが「スポーティな走りのテイストが前面に出たSUV」であることを理解すれば、スポーティな走りが好きなドライバーにとっては、むしろ好印象につながると思わせてくれたのだった。

 というように、パワーユニット、駆動方式で走りのテイストの印象がけっこう異なるのが新型ZR-V。燃費性能面でe:HEVモデルが優位なのは当然として、速さではなく、乗り心地優先で選ぶならパワーユニットを問わず、駆動方式は雪道や悪路に強く、高速走行時の安定感からドライバーの運転疲労低減にもつながる4WDとなる。一方、走りの気持ちよさ、動力性能を優先するならガソリンターボの選択は大いにあるわけだ。

 個人的には、初期受注約90%のe:HEVと装備全部乗せの最高額車のE:HEV Z 4WDのオールラウンダーな魅力・キャラクター・プレミアム感を認めつつも、ガソリンターボFFの存在も忘れてはならないと感じた。意外な結論かも知れないが、もっともスポーティな運転感覚が得られるガソリンターボFFのホンダSUVらしさが好印象だった。言い方を変えれば、最廉価の車両本体価格295万9100円のガソリンターボ X FFグレードでも、ブラインドスポットモニター、パワーテールゲートなどの装備の充実度とともに、走行性能でも十分に満足できるのがZR-Vということになるだろう。

 もちろん、ZR-Vを選ぶ際の優先順位は人それぞれ。くどいようだが、e:HEVとガソリンターボ、4WDとFFで走りのテイストがかなり違うということを念頭に置いて、できるだけ多くのパワーユニットと駆動方式の組み合わせをディーラー試乗し、自身に最適なZR-Vを選んでほしい。

 XかZかは、予算や必要な装備で吟味すればよい。ただし、Zは本革シートなどのほか、ホンダコネクトナビゲーション+ETC2.0、BOSEプレミアムサウンドシステム(12スピーカー)などの装備が充実している。ナビだけでも約30万円+α相当になるので、価格差から差し引く必要はあるのだが……。


青山尚暉 AOYAMA NAOKI

2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント
趣味
スニーカー、バッグ、帽子の蒐集、車内の計測
好きな有名人
Yuming

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