ラリーは「肉体の衰え」を経験でカバーできる! 日本のトップ「ベテランドライバー」が語る40代でも優勝争いができるワケ (2/2ページ)

豊富な経験がリザルトに影響するのがラリー競技

「ラリーは経験値が必要で、WRCでもセバスチャン・オジエが40代(注:実際は39歳)で勝っているからね。確かに瞬発力は落ちてくるから3kmのSSなら、カッレ(注:ロバンペラ/23歳)みたいな若いドライバーのほうが速いけれど、30kmのSSで、路面状況が変わったりしてくると経験値が有利になって、オジエが速いこともある」。

 そう分析するのが、スバルラリーチームアライのスバルWRX S4で全日本ラリー選手権のJN1クラスに参戦した56歳の新井敏弘だ。ライバルの多くが軽さを誇るシュコダ・ファビアR5やGRヤリスで参戦するだけに、新井は車両重量の重いWRXで苦戦。とくにターマック戦ではトップ争いから遠ざかっているものの、グラベルやスノーではいまだ抜群のコントロールを披露しており、スノー戦の嬬恋で3位に入賞したほか、第7戦のラリー北海道でも殊勲の4位入賞を果たすなど、国内トップレベルのパフォーマンスを披露している。

「確かに若いころに比べると瞬発力や瞬間的な判断力は落ちてくるけれど経験値があるから危険なところを判断できるし、それに対処することができる。レースでもそれは一緒。経験を重ねたドライバーは危険を察知して抑えることができるんだけど、ラリーはより顕著で、それをやらないと生き残れないからね」と新井は分析する。

 前述のJN2クラス王者、奴田原も「昔に比べると体力も落ちているし、反射神経も落ちているし、視力も落ちているけれど、ラリーはそれ以外の要素も必要だからね。やっぱり経験値が必要なんだと思う」と分析。

 さらに「ラリーのSSはコーナーの先がどうなっているのか分からないワイディングで走っているでしょ。見えてから反応する速度は若い頃と比べると間違いなく落ちているけれど、見えないところを予想していく能力は間違いなく上がっている。ラリーで歳を重ねても戦えている理由はそこだと思う。もし、ラリーのSSがサーキットみたいにコーナーの先が見えるコースなら若いドライバーが速いと思うけれど、見えないが故に経験値からくる『予測する能力』が武器になってくる。技術的にはペースノートの精度や表現の仕方が突き詰められていくんだと思う」と解説する。

 このようにラリー競技はレース競技よりも経験値がリザルトを左右するカテゴリーだが、逆に言えば経験を重ねさえすれば若いドライバーにもチャンスはあるという。

「俺は若いころ、週4回、走りに行っていたけれど、いまの若手ドライバーはあまり練習していない。あとはグラベルラリーを経験したほうがいいかな。ヨーロッパのターマックはインカットして砂が出たりと路面状況が変わっていくけれど、日本のターマックはそうじゃないからね。グラベルのほうが極端に路面状況が変わるからスキルアップにいいと思う。いま国内のラリーシーンではきちんと走れる若手ドライバーが少ないから、グラベルで練習して上手くなればすぐに有力チームにひっぱってもらえると思う」と語るのは新井だ。

 一方、奴田原も「自分も若いころはたくさん練習していたからね。それから考えるといまの若いドライバーは圧倒的に練習量が少ないと思う」と前置きした上で、「日本はヨーロッパと比べると若手ドライバーがステップアップできるシステムが少なかったけれど、いまはトヨタGAZOOレーシングが若手育成プロジェクトを行なっているので、これから若手ドライバーが出てくると思う」と分析。

 さらに、「自分もラリースクールでトレーニングの仕方を教えているけれど、やっぱりシートを用意してあげないといけない。2023年はレカロと共同でクルマを用意して若いドライバーを起用したけれど、こういった形を増やしていくことができれば、ヨーロッパのように若手ドライバーが育っていくと思う」と付け加える。

 このように、ラリー競技はレース競技以上に経験がリザルトを左右する競技で、それ故に最高峰のWRCでもベテランドライバーが優勝可能。逆に言えば、経験を重ねれば若手ドライバーにもチャンスのあるカテゴリーで、その結果として、23歳のロバンペラと39歳のオジエがトップ争いを展開することができるのである。


廣本 泉 HIROMOTO IZUMI

JMS(日本モータースポーツ記者会)会員

愛車
スバル・フォレスター
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登山
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