電気自動車で話題のキーワード「全固体電池」ってそもそも何? 実用化されるとユーザーにどんなメリットがあるのか

この記事をまとめると

■EVの発展のために全固体電池の実用化に大きな期待が寄せられている

■じつは全固体電池とリチウムイオン電池は電解質が固体か液体かという違いしかない

■全固体電池の実用化が実現してもコストがかかりすぎるようでは意味がない

全固体電池の実現でEVは大幅な進化を果たす

 全固体電池への期待は高く、これが実現することにより、バッテリー容量が少なくても、長距離移動が可能になるといわれる。電力量という実用性を満たしながら、バッテリー車載容量を少なくできれば、昨今取りざたされている「電気自動車(EV)のタイヤ摩耗は車両重量の増加によって早まる」との懸念も薄れていくかもしれない。

 一方で、果たして全固体電池が適切な原価で量産できるのかといった点は、発売されてみないとわからない。既存のリチウムイオン電池より原価が高くなるなら、EVの身近さが遠のく恐れもある。

 リチウムイオン電池と全固体電池は、あたかも別のバッテリーと思われがちだが、じつはそうではない。どちらも仕組みは同じで、充電や放電に必要な電解質が、液体であるか固体であるかの違いしかない。

 既存のリチウムイオン電池は電解質が液体だ。液体といっても、水のような液状だけでなく、ゼリー状の電解質を使う場合も電解質が液体という枠組みに入れられている。現在のリチウムイオン電池の多くは、そのゼリー状の電解質を使っていると考えられる。

 その電解質を、固体にする意味はどこにあるのかというと、プラスとマイナスの電極により面が接触しやすくなり、1セル(バッテリーの最小単位)の性能が上がると期待されている。

 1セルの性能が高まれば、全体のセル数を少なくしても、バッテリーとして十分な性能が得られ、つまりは、少ないバッテリー容量で適切な性能が手に入るので、EVの車両重量を軽くでき、積載量が少なければ安上がりとなって、さらに車両重量が軽くなれば電力消費が抑えられ、燃費に通じる電費を改善でき、懸念されているタイヤの摩耗も抑えられるなど、利用者にとっての利点がさまざまに語られることになる。

 一方、電解質と電極の双方が固体となると、微細に見れば、接触面が適切に接するためには、面の精度を高めなければならない。微細な目で見たとき、表面に凹凸があってザラザラした状態だと、互いの出っ張った部分だけの接触となって、結局は電極と電解質の接触面積は減ることになる。つまり、製造精度が極めて高くなければ全固体であることの期待値は得られないことになる。

 どのような工業製品でも、表面が鏡のように滑らかな品質を大量生産で保持することは容易でない。高度な生産技術が求められ、そこには原価がかかる。つまり、たとえ全固体電池が完成しても、試作と同様の性能を量産品質で実現できるかは未知数なのだ。

 生産面で原価が上がるなら、すでに大量生産で品質が保たれ、また耐久信頼性も高まっている既存のリチウムイオン電池で十分という考え方もある。

 また、リチウムイオン電池は、プラスとマイナスの電極間をイオンが移動することで充放電を行うが、イオンの移動という体積変化を、すべて固体のバッテリーで補えるのかという技術的懸念もある。

 EVについてよく耳にするのは、すでに完成した技術は話題にならないが、完成の目途が立たない技術は話題になるという論だ。全固体電池も、量産されて信頼耐久性が高まれば、期待のバッテリーとなりうるが、試作段階では海のものとも山のものともわからず、ならば既存のリチウムイオン電池の原価を下げ、普及させるほうがEV普及の現実解という考え方も根強い。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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