日産サクラの売れ行きを見れば日本でBEVが売れないなんてことはない! ただし大ヒットの裏で必要な「次の一手」とは (2/2ページ)

日産からサクラ+αのBEVを出してほしいところ

 それではよく売れているサクラを、「日本メーカーを代表するBEV」といっていいかとすると、筆者は少し考えてしまう。まず使用にあたって航続距離が短いこともあり、他車と比較して制限があること。実際ディーラーでも「サクラでの遠出は考えないでください」といわれることも多い。実際試乗してみると、すぐに「充電してください」といった表示が計器盤に出てしまう。

 BEVの普及が進む中国では、BEVの航続距離は600kmも珍しくないので、サクラは物足りないといわざるを得ないだろう。また、日本の軽自動車は衝突安全性能の関係もあり、広く海外で正規にラインアップすることが難しいとも聞いている(日本から軽自動車が個人輸出されていることもあるが)。

 筆者としては、そろそろ日産としてサクラよりやや使用範囲の広い「サクラ+α」的なBEVを出してもいいように感じている。サクラは前述したような地方を中心とした一定のニーズをつかんでヒットしている。しかし一方で、現状のスペックでは物足りないと、静観している人も多いだろうし、すでに所有しているサクラオーナーのなかにもそう思っている人はいるだろう。

「ネクストサクラ」として、ノートサイズぐらいのBEV(コンパクトクロスオーバーSUVスタイルでもいい)が出てもいいのではないだろうか。このカテゴリーに近いBEVとしては中国BYD(比亜迪汽車)オートが日本国内でドルフィンをラインアップしている。2024年の年央には供給体制が強化されるそうだ。

 現状BEV購入への政府補助金の交付を受けると、4年間名義変更はできないので、2026年あたりまでに日産が用意できれば、サクラからの上級移行ないし乗り換え需要にスムースに対応できるが、それができなければ、ドルフィンに流れていくケースもあり得ない話ではない。いずれにしろ、サクラの意志を継いだ新たなモデルが登場すれば、海外でも積極的に展開できる可能性を持つことになるだろう。ちなみに韓国では、韓国の軽自動車規格車両(ICE)ベースのBEVの開発が進んでいるとの情報もある。

 サクラのようにスペックをある程度抑えて、買い求めやすくした「ローコストBEV」は、中国系各メーカーがこぞってラインアップしているので間違ったものではないが、サクラがデビュー当初から日本でヒットしていたことが、中国系メーカーの動きを後押ししたのではないかとも見ている。

 もっとも懸念すべきは、サクラがこのまま単独でよく売れる状況が続くと、日本の消費者の間で、「所詮BEVは制約の多い乗り物なんだ」という意識が定着してしまう可能性が高いということ。BEVがベストな選択というつもりはないが、正当な価値判断がされないなか、選択肢から除外されてしまうのは健全とはいえないだろう。

 サクラがよく売れているということは、それだけBEVに興味をもっていた人が多かったともいえる。ただこのままでは、サクラみたいなBEVを欲しがっていた人があらかた購入してしまうと、サクラも一時の「ブーム車」みたいな存在に陥ってしまうことも十分に考えられる。

 軽自動車をラインアップするメーカーすべてがBEVをラインアップするほど需要があるのかといえば、現状ではそこまでの需要は「軽自動車」という規格に限っていえばあるとも思えない。ただし、優秀なHEV(ハイブリッド車)を世界で販売している日本メーカーだからこそ、日本車らしいBEVというものが提案できるものと筆者は考えているので、もう少しBEVのラインアップを増やして市場の反応を見てもいいのではないかと考えている。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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