徹底的にローカライズされた質感高い走りが光る
発進はとても軽やかだった。これはビュンと想像以上に飛び出してしまうようなものでも、チープさを感じる軽さでもなく、ギュッとしたボディのカタマリ感と高い接地感の上に成り立つ軽やかさ。ステアリングフィールは低速ではややスルスルとしてまわしやすい印象から、だんだんとしっかりした手応えになり、高速道路に入ると落ち着いた安心感が伝わってきた。
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道路の継ぎ目ではゴツゴツとした不快な振動をうまく抑えており、段差の乗り越えでも一発でいなす足さばきに感心。カーブが続くようなシーンでは、全高の高いクルマにありがちな横揺れや沈み込みがほとんどなく、カッチリとした安定感がある。
そうした安定感に関して、重たいバッテリーを低い位置に置くBEVであることは一般的には有利に働くが、足まわりのチューニング次第ではスポーティ感が強めの硬い乗り心地になりやすい。でも、インスターは日本でのテストを繰り返し、凹凸路でも快適なダンパー、低速から高速まで安定した挙動を得られるサスペンションといった日本専用のチューニングを行ったという。
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それも、30タイプほどの組み合わせを試したという熱量がすごい。電動パワステのアシスト量もアップして、ステアリングは低速でも操りやすい方向へ。フロントメンバーにブレースを追加することでロードノイズを低減したり、ウェザーストリップの追加や厚いドアガラスの採用で静粛性も向上している。
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さらに、エコ、ノーマル、スポーツ、スノーと4つある走行モードの特性も、それぞれ日本独自に変えており、とくに発進時の穏やかさ、扱いやすさを重視。確かに、エコとノーマルはどちらも加速と減速のコントロールがしやすく、ストレスのないドライブができる。
スポーツを選ぶとメーターが赤く光り、視覚的にも気分をアップしてくれるが、実際のレスポンスにはそれほど強めの違いは感じられなかったので、ここはもう少し過激にしてもよいのかもしれない。ただ、ステアリングのパドルで回生ブレーキの強さをレベル0〜3まで変えることができ、3にするとかなりメリハリのあるスポーティな走りが楽しめた。
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回生については、パドルを数秒引くと選択できるオートモードは、減速時に完全停止までサポート可能。これはインスターから搭載された機能で、完全停止する際はブレーキペダルを踏む必要があるBEVもあるため、アクセルペダルのみで完全停止する乗り方に慣れているBEV上級者にとっては、魅力のひとつになりそうだ。
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日本独自に調整したものはまだある。NSCC(ナビゲーションベース・スマート・クルーズ・コントロール)は、ナビと協調してカーブ手前での減速などをサポートする機能で、世界でも難関とされる首都高速道路での走行に合わせて、安心して走れるように制御を最適化。また、日本で義務化されるペダル踏み間違い防止装置も、ヒョンデとして初めて搭載されている。
IONIQ5のころから、右ウインカー対応や日本語認識などのローカライズに取り組んできたヒョンデだが、当時やりたくてもできなかったことが、本国と粘り強く掛け合って調整してきた甲斐あって、ようやく日の目を見たというところもあるという。そうした意味でも、インスターはサイズ的にも機能的にも、もっとも日本の道路事情と日本人の運転志向にピタリと合う1台になっていると感じた。
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充電は急速充電と普通充電に対応し、150kWの高性能な充電器を使うと10%〜80%までがわずか30分ほど。外部給電とV2Lにももちろん対応。ナビで目的地を設定すると、そこに到着するときにもっとも効率よく充電できるよう、バッテリーコンディションを調整してくれる機能があり、スマホアプリ「BlueLink」のさまざまな機能も使いやすくなっている。
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住環境やライフスタイル的にBEVは諦めざるを得ない私まで、すっかり「ほしい」と前のめりになるほど魅力いっぱいのINSTER。装備テンコ盛りの「Lounge」が357万5000円という破格さだけに、BEVデビューへの背中を押される人は多いはずだ。
