RRこそがポルシェ911っていうのは幻想? なんだかんだ4WDの911の完成度はRRを超えている!

この記事をまとめると

■ポルシェ911には4WDのカレラ4がラインアップされている

■初めてカレラ4が登場したのは1989年の第3世代に相当する964型911のとき

■カレラ4のオールマイティな仕上がりは911のスタンダードモデルと考える人も多い

911はRRがすべてではない

 数あるスポーツカーのなかでも、1960年代に誕生し、現在に至るまでリヤエンジンという独特な基本設計を継承し、生産が続けられているポルシェ911は、やはりきわめて特別な存在ということができるのではないだろうか。

 もちろんポルシェにとっても、リヤエンジンよりミッドシップのほうが、運動性能に関しては多くのメリットを与えることはかくも承知の事実であるし、実際に2017年のル・マン24時間に象徴されるGTレース用に、ミッドシップの911RSRを生み出した歴史的な事実もある。

 911がリヤエンジンの基本設計にこだわる理由は、それが356、さらにはVWビートルの血統を受け継ぐモデルであるからだ。現在では駆動方式はRWDと電子制御多板クラッチ=PTMをセンターデフに用いる4WDの2タイプがあるが、本来リヤアクスルの後方にエンジンを搭載するリヤエンジン車は、加速時やコーナリング時に、後輪により大きな荷重を与えることができ、結果として駆動力を確実に路面に伝えることができるというメリットがある。後輪で駆動力を得て、前輪で操舵するというのは、自動車にとってもっともシンプルで自然なメカニズムといえるのだ。

 ポルシェが911のプロダクションモデルに、4WD仕様を加えたのは1989年、初代から数えて第3世代に相当する964型911でのことだった。

「カレラ4」とネーミングされた4WD仕様は、コーナリング中に時として大きな遠心力とともにオーバーステアを発生し、その動きを止めることが非常に難しいというRWDモデルの欠点を少なからず解消するために投入されたもので、その技術のベースには、あの959で得たものがあった。ちなみにこのカレラ4での前後駆動力配分は31:69に設定されていた。

 最新の8代目911、すなわち992型911にも、もちろん4WDモデルの設定はある。先代の991型911までは、カレラ4に専用のワイドボディが使用されていたのだが、この992型ではRWDモデルも4WDモデルもボディは共通。その意味では、4WDのカレラ4やカレラ4Sの視覚的な魅力はやや小さなものになったのかもしれない。

 それでは実際の走りは、RWDと4WDでどのように違うのだろうか。911のもつスポーツ性をフルに味わいたいというカスタマーには、やはりRWDでダイナミックな走りをオススメしたいところだが、4WDモデルのもつスタビリティはやはり絶大。前で触れたPTMは、前後左右の加速度はもちろんのこと、4輪のスピード、ステアリングの切れ角などから前後のトルク配分を常に最適に制御する。

 フロントには最大で50%のトルクが伝わる仕組みだから、タイトなコーナーなどではその恩恵がはっきりとドライバーにも認識できるのだ。

 車重はたとえばカレラ4SとカレラSではもちろん4Sのほうが重いが、その数字はわずかに50kg。0-100km/h加速でカレラ4のほうが0.1秒速い3.4秒を記録するのも、トラクションが有効的に4輪から伝達されている証明といえるだろう。

 RWDモデルに加え、インパネ内には前後のトルク配分をリアルタイムで表示するメーターが加わるが、それを見ていると、加速時などにはじつに頻繁に前輪側へのトルクが制御されていることがわかる。それがまさに絶対的な安心感に守られた加速感を演出してくれるのだ。

 コーナリングの感覚も、4WDモデルとは思えないほどにナチュラルなもの。ステアリングはRWDモデルよりやや重めに感じるが、そのぶん正確さは高まったようにも思える。ちなみにコーナリングでは前輪側にはほとんどトルクは送られていないのが例のトルク配分メーターから読み取れる。

 その走りの完成度、そしてオールマイティな仕上がりを考えると、カレラ4、カレラ4Sといった4WDモデルは、もしかしたらポルシェ911のスタンダードモデルなのではないか、そのように考える人もきっと多いに違いない。


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山崎元裕 YAMAZAKI MOTOHIRO

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 /WCOTY(世界カーオブザイヤー)選考委員/ボッシュ・CDR(クラッシュ・データー・リトリーバル)

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