この記事をまとめると
■スポーツカーのなかにはブーストボタンを備えているモデルが存在する
■ブーストボタンでエンジンの出力特性やトルク特性を変えることが可能だ
■ブーストボタンによりスポーティ性が高いハイエンドカーの本質を体験することができる
限られたスポーツカーが備える魔法のスイッチがブーストボタン
スポーツモデルで採用されることがある、「ブーストボタン」。なぜ、そうした機能があるのか。
アバルト595のブーストボタン画像はこちら
ブーストとは「強化する」という意味だが、自動車ユーザーにとってブーストと聞くと、ターボチャージャーのブースト圧を連想する人が多いだろう。ターボチャージャーは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンの排気エネルギーを活用して、エンジンへの吸気効率を高める仕組みだ。ブースト圧をコントロールすることで、エンジンの出力特性やトルク特性を変えることができる。
一方、近年はEVにもブーストモードが導入されるようになっている。むろん、EVに排気エネルギーはなく、ターボチャージャーも装着されていない。そのため、電動パワートレインの制御プログラムを変更することが、ブーストという解釈だ。
たとえば、韓国ヒョンデ「IONIQ 5 N」のNGBスイッチがEVのブーストにあたる。通常モードのシステム出力609馬力・トルク75.7kg-mから、650馬力・78.5kg-mへとブーストされる。
ヒョンデIONIQ 5 NのNGBスイッチ画像はこちら
筆者は4月、ヒョンデとハンコックが共同で活用している韓国内のテストコースで、「IONIQ 5 N」をハイペースで走行させた。路面はウエットコンディションだったが、同モデルの高い安定性に驚いた。かなり強引にコーナーへ進入しても、制動力の高さ、コーナーでのグリップの高さ、そして先読みがしやすいハンドリングで思いどおりに走らせることができる。
そして、NGBスイッチをオンにすると世界観が変わる。前述のように、データ上のパワー・トルクアップ以上に走りの迫力が一気に上がる。ターボチャージャーのブーストアップと比べると、こうして電子制御による動力系の可変の幅が極めて大きいことを、全身で感じ取ることができた。
ヒョンデIONIQ 5 Nの走行シーン画像はこちら
いずれにしても、乗用車におけるブーストボタンとは、スポーティ性が高いハイエンドカーの本質を、ユーザーが垣間見ることができる領域だといえる。その状態を、たとえば時間的に制約することによって、クルマ全体の商品性が上がる。
ただし、当然ながら一般公道では、各種のブーストボタンを試すことができるシチュエーションは限られる。オーナーズミーティングなどで、サーキットランをする際の「楽しみのひとつ」という位置付けである。
ヒョンデIONIQ 5 Nの走行シーン画像はこちら
付け加えるならば、ブーストボタンは出力やトルクをアップさせるという旧来の考え方ではなく、エンターテイメント性の機能を一時的に拡充するといった発想もあるのではないだろうか。
クルマのブースト、新たなる展開を期待したい。